第1回「磁気と肩こり豆知識」
―血行をよくして、筋肉のこりをほぐす磁気―

■磁気治療は古代ギリシアの時代から

 たがいに引き合ったり、鉄を引きつけたりする天然磁石の不思議な現象は、数千年前の石器時代から知られていたといわれる。中国では昔、磁石のことを「慈石」と書いた。磁石を乳房にたとえると、それに吸い寄せられる鉄はわが子。それを慈しむ母親の姿を連想させることが、慈石の名の由来という。また、中国・河北省にある磁県は、かつて慈州と呼ばれ、天然磁石を多く産出したところ。この慈州で採れる石だから、慈石と名づけられたという説もある。

 磁石が南北を指し示すことを利用して、中国で考案されたといわれる羅針盤は、世界の3大発明の1つにあげられているが、磁石が治療に用いられたのは、羅針盤の発明よりももっと古いようで、紀元前200年ごろに、ギリシアの医師が下剤として利用したという記録も残っている。10世紀にはアラビアで肝臓疾患に、16世紀にはヘルニアの治療に、19世紀になると、ドイツで肩こりや神経症の患者にも使われていた。

 わが国で磁気治療が注目されるようになったのは、磁気指輪や磁気腕輪が登場した昭和30〜35年ごろ。磁気治療など、単なる気休めと思っている人が今でもいるが、医学的にその有効性はとっくに確認されていて、昭和36年の薬事法施行令の中で、治療器具のひとつとして正式に登録されている。実際、人体表面の温度分布を測定する赤外線サーモグラフィを使って試験してみると、磁気作用は明らかに血行をよくして、体温を上昇させていることがわかる。


■交感神経を高ぶらせるストレス社会

 久しぶりに登山やスポーツなどをすると、翌日、筋肉痛に悩まされることがある。ふだん鍛えていない筋肉を酷使したためである。筋肉痛は数日もすれば治ってしまうが、問題なのは日々じわじわと蓄積する「こり」である。こりは筋肉への血液供給がとだえて、乳酸などの疲労物質がたまり、筋肉が堅くなってしまう現象をいう。こりの部分に磁気を与えて、血行を促進し、こりをやわらげるのが磁気治療である。

 肩こり、腕や首のこりなど、筋肉のこりは自律神経のはたらきとも関連している。自律神経は人の意志から独立して、内臓器官を支配する神経系。交感神経と副交感神経の二系統からなり、それらが拮抗しながら内臓や血管の活動を調整している。

 緊張したり興奮したりするときに活動が高まるのが交感神経で、逆にリラックス状態のときに活動が高まるのが副交感神経。ストレスがたまりやすい現代生活は、交感神経のほうを異常に高ぶらせて、神経のバランスを乱れさせる。とりわけ競争の激しいビジネス社会などは、まさに戦場のようなもので、職場の上司や同僚と机を並べて仕事をしていたり、得意先から電話がかかってきたりすると、交感神経のはたらきがまさって、心臓の拍動が高まったり、筋肉が緊張したりする。これがさまざまな筋肉のこりとなって現れるのである。


■「フレミングの法則」で血行を促進

 身につけているだけで血行を促進して、筋肉のこりがほぐれ、自律神経のバランスも回復する。それが磁気治療器である。だが、磁気でなぜ血行がよくなるのか。それは人体の電磁気的現象と深く関連している。

 脳波、心電図、筋電図など、生体にはさまざまな電気現象がみられるが、いうまでもなく電気と磁気は密接な関わりがある。磁気は生体にまったく作用しないと考えるほうがむしろおかしい。では磁気が人体に作用するメカニズムは、いかなるものか。

 血液成分の中には、プラスイオンとマイナスイオンに電離するものが含まれている。これが血管中を流れるということは、電流が流れることに等しい。ここに磁石によって磁場を加えると、「フレミングの左手の法則」により力が発生する。この力がイオンの流れを活発にし、血液の流れをよくすると考えられている。

 ところで、10数年前、にわかに第2の磁気治療器ブームが巻き起こったのだが、それは強力な磁気エネルギーをもつ「希土類磁石」が開発され、使われるようになったからだ。なかでも「サマリウムコバルト磁石」の磁気エネルギー(最大エネルギー積という)は20000000ガウス・エルステッド。フェライトの約5倍、アルニコ磁石などの鋳造磁石の約30倍。これは、同じ鉄球を吸引して吊り上げるのに、フェライトでは5倍の体積、アルニコ磁石では何と約400倍の体積を必要とするハイパワーである。強力な磁気エネルギーをもつため磁石を小さくでき、肩・首・腕・腰などに負担をかけずスマートに治療ができる製品が各種開発され、磁気治療はますます広がりをみせるようになった。


■現代人に不足する磁気を補給

 生体と磁気の関連の研究は、本格的に始まってからまだ半世紀にも満たない。しかし、医学研究者たちは、現代人の「磁気欠乏(不足)症候群」を声高に警告している。鉄筋・鉄骨コンクリートのビルで仕事をし、マンションで生活し、電車やマイカーで通勤するという現代生活は、まるで四六時中、鉄箱の中にいるようなもの。これでは地磁気が鉄に吸収されてしまって、人体への作用が小さくなってしまう。詳しくは次号で紹介するが、地磁気はこの200年間で約10%も減少している。おいしい空気や水とともに、磁気は健康になくてはならないものであるが、現代人は自然環境からも人為的環境からも、ますます磁気不足に見舞われているのだ。

 「窮すれば通ず」ということわざがあるが、まさにハイパワーの磁気治療器は、磁気欠乏(不足)症候群の現代人を救うために、生まれるべくして生まれたもの。磁気治療など効くものかなどと思い込んでいるガンコな頭をまずほぐして、とにかく試用してしてみることをご推奨する。あらゆるこりやストレスに速効ありとはいわないが、かなりの高確率で驚異的な効果を発揮していることは、まぎれもない事実なのだ。



第2回「現代人の磁気欠乏症候群」
―磁気は生体に作用する環境要素―

■低下を続ける地磁気。2000年後にはゼロに?

 地球は1つの巨大な磁石である。そのことをはじめて科学的に説明してみせたのが、16世紀末のイギリスのW・ギルバート。航海士たちによって、羅針盤の針は極地に近づくにつれて、下のほうに傾くという現象は知られていた。ギルバートは大きな磁石の球体をつくって、それを証明してみせた。とはいえ磁鉄鉱などの天然磁石しかなかった時代。さぞかし大変な苦労をしたことと想像するが、おかげで地磁気の科学も飛躍的に進歩を遂げることができたのである。ちょうどイタリアでは“近代科学の父”ガリレイが活躍していた時代、後年、ギルバートのほうは“磁気学のガリレイ”とも呼ばれるようになった。

 ところで、地球が1つの磁石であるからには、すべての生物は、誕生してから今日にいたるまで、地磁気を浴びながら生きてきたことになる。したがって、地磁気は重力と同様に、人間の生活にとって無視できない環境要素のひとつであると考えてもおかしくない。

 ギルバート以来、地球規模で地磁気観測が行われるようになった結果、地球の磁極が移動を続けていること、さらには磁極は過去に何度も入れ替わっているということも明らかになってきた。そして、しだいに問題になってきているのは、現在、この地磁気が年々低下しつつあり、およそ2000年後には、ほとんどゼロになってしまう可能性があるということだ。


■地磁気は地球生命を守るバリアである

 地磁気が消失しないまでも、極端に小さな値になるとどうなるか? 懸念されている最も大きな問題は、地上に降り注ぐ太陽風や宇宙線の量が増大して、あらゆる地上生物や海洋プランクトンなどを直撃し、放射線による影響が、突然変異や種の絶滅を起こすかもしれないということである。

 内部で核融合反応を起こして輝いている太陽は、高温・高速のプラズマを宇宙に向かってたえず吹き出している。これが太陽風である。地球軌道付近でその速度は毎秒500km、温度は約10万k(ただし密度は低い)にもおよぶ。つまり、地球は常に太陽風にさらされているわけなのだが、この太陽風から地球を保護しているのが地磁気である。

 超高速で地球に近づいてくる太陽風は、地球半径の10倍ほどのところで、地磁気による強力なガードに直面し、磁気の影響の少ない方向へとそれていく。このため、高温・高速の太陽風が地上を直撃することがないのである。だが、地磁気がしだいに減少するにつれ、地球の生命はこの太陽風にまともにさらされはじめることになる。


■現代人の“磁気欠乏(不足)症候群”とは?

 ビルやマンションの中での仕事や生活、電車や自動車での移動など、現代人はまるで鉄カゴの中で生きているようなものである。鉄は空気に比べて、数100〜数1000倍も磁気を吸収しやすい。ということは、鉄筋・鉄骨コンクリートの建物の中では、自然環境よりも極端に少ない地磁気しか浴びていないということになる。ちなみに日本周辺の自然環境における地磁気のエネルギーは約0.5ガウスだが、それがたとえば自動車の中では約0.25ガウスと、半分近くに減ってしまう。



 地磁気は過去1万年間において、紀元前3500年ごろを最小として増加に転じ、その後、西暦500年ごろをピークとして減少を続けている。地磁気の全モーメントの減少は1年間で約0.05%、すなわち100年間で約5%にまで達しており、この勢いで進むとすれば2000年後にはゼロになってしまう計算になるのである。また、地磁気の全モーメントばかりでなく、偏角や俯角にも変化がみられるとも報告されている。

 このような自然現象としての地磁気減少に加えて、鉄に囲まれた生活によって磁気が遮断されることが、現代人のさまざまな心身変調の原因になっているのではないか。こうした観点から、1957年以来、生体と磁気との関連を研究している中川恭一博士(元・東京いすゞ病院長、現・「磁気と生体」研究会会長)らの研究グループは、現代人には「磁気欠乏(不足)症候群」ともいうべき病的状態が存在することを指摘している。


■生体機能が乱れる磁気不足

 地磁気が減少傾向にあるからといって、すべての人間に病変が現れるわけではない。しかし、人為的に地磁気をシャットアウトした場合、中枢神経系や日周リズムなどに明らかに異変がみられるという。実験でなくても潜水艇の中はほぼ完全な磁気遮断空間なので、そこに乗り込んで長く生活していると、代謝能力の低下や、白血球の減少など、さまざまな生体機能の乱れが起こることも報告されている。

 いわゆる磁気治療が、外国ではきわめて古い歴史をもっていることも、こうした病態の存在を間接的に証明するものだ。つまり、外部より人工的に磁場を補足して作用させることにより、身体の変調が改善されることは経験的によく知られた事実なのである。わが国では昭和30年代のはじめごろに、まず磁気指輪や磁気腕輪が登場した。その有効性は臨床的にも広く認められており、昭和36年の薬事法施行令の中でも治療器具として正式に登録されている。その後、強力なパワーをもつ磁石も開発され、磁気ネックレスなどもブームとなり、今日にいたっている。

 もちろん、人体には個人差があるから、すべての人に磁気治療が効果的とはかぎらない。磁気は目に見えないから、とかく効果が疑われがちなのだが、しかし、磁気補給によって心身の変調が、かなりの割合で改善されているというのは、医学統計的に疑いのない事実なのである。このことは、現在、地磁気が地球規模で減少傾向にあること、また現代人は地磁気不足の環境で生活していることとともに、もっと重大視する必要があるだろう。



第3回「生命の神秘と磁気」
―生命は磁気に感応する小さな宇宙―

■分子・原子レベルで人体は磁気に敏感

 ご飯がふっくらおいしく炊けるIH式ジャー炊飯器が好評のようだ。IHとは誘導加熱(Induction Heating)の略称。コイルに高周波電流を流すと、発生した磁力線が金属製の内釜に渦電流をつくり、金属の電気抵抗により発熱する。火のない調理器とも呼ばれる電磁調理器と同じ原理である。

 また、赤外線のうち波長が5μm(マイクロメートル)から1mmまでの電磁波を遠赤外線といい、物質によく吸収されエネルギーが効率的に熱変換されることが知られている。この性質を利用したものが、遠赤外線電気コタツなどの暖房器具である。石焼き芋がおいしいのも遠赤外線効果によるという。

 通常、人体は感じることはないが、磁気や電磁波は人体を構成する物質の分子や原子の状態に変化を与えることは科学的にも明らかになっている。たとえば、遠赤外線の振動数は有機物などの高分子化合物の固有振動数に近いので、そのエネルギーは吸収され、温度を上昇させる効果を示すのである。


■人体の磁気情報をコンピュータで画像化

 遠赤外線などの電磁波と同様に、人体に磁場を加えると水素原子などの原子核に磁気共鳴が生じて、エネルギー状態に変化が起きる。また磁場を停止すると、特有の緩和時間を経てから元の状態に戻る。これらの磁気情報の変化をコンピュータで解析して画像化するのがMRI(核磁気共鳴映像法)と呼ばれる装置である。X線と違って放射線障害がなく、人体の輪切り画像はもとより、縦切り画像も得られる無侵入性の医療機器として、現在では広く利用されるようになった。X線では検索できない頭骨深部の脳出血とか内臓がんなどには、MRIはとりわけ威力を発揮する。がん細胞はなぜか水分子を取り込んで、いわば水っぽくなることが多く、それが水素原子の密度差となって現れるので、従来の方法では鑑別が困難だった病巣も鮮明に画像化できるようになったのである。

 ところで、MRIの磁場に比べれば弱いものの、人体は四六時中、地球の磁場すなわち地磁気にさらされている。しかも、驚くべきことに地磁気は過去数億年の間だけでも、幾度となく南北の磁極を入れ替えていることも判明している。だが、この地磁気が人体にどのような影響を与えているかについては、ハイテク全盛の現代においてもなお定かではない。生物磁気学といった学問分野が生まれたのも1970年代、つい最近のことなのである。


■地磁気変化は生物進化にも影響

 地磁気発生のメカニズムについては、地球核において鉄・ニッケルなどの金属流体が運動して起電力が生まれ、それが磁場をつくるという地球ダイナモ理論が有力である。しかし、どのようなメカニズムで地磁気は逆転するのか?

 詳しいことは未解明なのだが、地磁気変化には数種類の周期があり、どうやら地球の自転のあり方に関係していることも分かってきた。また、数10万年〜100万年ほどの長い周期の地磁気変化は、氷期の襲来と強い相関関係があり、生物進化にも影響を与えてきたことが明らかになっている。

 一方、1日から数日といった短周期の地磁気変化は、太陽フレア現象が原因といわれる。磁気エネルギーを爆発的に放出する太陽フレアが発生すると、超高速の太陽風が吹きすさび、これが地球の電離層を乱して“磁気あらし”を起こし、極地ではオーロラが出現する。また約11年周期の黒点活動は、地球気象や農作物の収穫に異変をもたらすばかりでなく、伝染病やインフルエンザなどの世界的な蔓延を引き起こすともいわれている。 

 生物にとって地磁気は環境の一部である。地磁気が太陽や地球の内部活動によって変化を受けるならば、小さな宇宙にもたとえられる生体が、この変化に無関係でいられるはずはない。


■渡り鳥や回遊魚の生体コンパス

 近年、渡り鳥や回遊魚などの体内から、生体コンパスともいうべき磁性物質が相次いで発見されている。驚くべきことに、人体にも同様の器官があるらしいという報告もある。方向オンチという人は少なくないが、逆に地球磁場にきわめて敏感な人がまれにいる。どんなに地理に不案内なところでも、地磁気の南北の配向を間違えることがないというのは、かつて人類もある種の動物のように、地磁気を感知する能力をもっていたことを物語るのではないのか。

 また、磁気的環境によって、患者のアレルギー反応が誘発されたり、軽減したりするケースも報告されている。さらには最近さかんな認知科学におけるニューラル・ネットワーク(神経回路網)の研究も、磁気の作用をぬきに語れない段階にきているという。しかし、電磁気学やエレクトロニクスの発展にもかかわらず、生体と磁気との関連をめぐる研究はきわめて遅れているのが現状なのである。


■磁気現象は生命の神秘に深く関わる

 地磁気は水や空気とともに、健康に深く関わる環境要因の1つである。しかし、現代は地磁気がますます減少する過程にあるうえ、鉄やコンクリートの建造物の中で暮らしたり、自動車や電車で移動する時間が多く、極端に磁気が欠乏している状態にある。また情報通信機器が発達し、24時間休むことのない夜型社会になるにつれ、交感神経がたえず緊張を強いられて自律神経は本来のバランスを失い、頭痛や肩こり、不眠などの悩みを訴える人々が増加している。

 磁気は目に見えず、また生体の感覚器官を直接刺激することはない。しかし、磁気治療は数千年の歴史をもち、わが国では昭和36年の薬事法施行令の中で、磁気ネックレスや磁気指輪などの磁気治療器を正式な治療器具として登録している。臨床例や赤外線サーモグラフィを使った試験においても、磁気治療器は血行を促進し、肩こりなどに有効であることは実証済みである。

 脳波、心電図など、生体にはさまざまな電気現象がみられることを疑う人はいまい。いうまでもなく電気と磁気は密接に関連するから、磁気が生体に作用しないはずはないのである。

 ミクロの物質構造を追求する素粒子論と、広大無辺の宇宙の起源を追究する宇宙論―この2つの先端科学が交わる接点に人間という生命体がある。おそらく生命活動と精神現象における磁気の関わりの解明こそ、現代科学の最終到達点の1つになることは間違いないだろう。人類はいま、その神秘の扉が開かれる直前の時代に生きているのである。



第4回「磁性物質とがん治療」
―がん治療にも期待がかかる生物の磁性物質―

■磁場に応答する不思議な磁性細菌

 1929年、イギリスの細菌学者フレミングは、たまたま培養器に混入したアオカビがブドウ球菌の発育を抑制することを発見した。それが世界初の抗生物質ペニシリンの誕生につながったというのは有名な話。ペニシリンは第2次大戦のころから細菌性感染症の特効薬として、世界で広く使われるようになり、多くの人々の命を救い、数々の抗生物質が開発された現在もなお、抗生物質の首位の座を誇っている。

 バクテリアとも呼ばれる細菌は、原核細胞からなる単細胞生物である真正細菌のほか、放線菌、粘液細菌、スピロヘータなどの総称である。大きさは0.2〜1μm(マイクロメートル)ほどで、19世紀に発明されたグラム染色法により、染色液に染まる細菌をグラム陽性菌、染まらない細菌をグラム陰性菌という。ペニシリンに対する感受性が高いブドウ球菌はグラム陽性菌。一方のグラム陰性菌には、食中毒を起こす大腸菌やサルモネラ菌などがある。

 ところで、このグラム陰性菌の中には、磁場に反応するという風変わりな性質をもつものがいる。1970年代半ばにアメリカの科学者ブレークモアが発見した磁性細菌(走磁性細菌とも呼ばれる)である。


■生物は羅針盤をもっている?

 生物のもつ磁性物質が最初に発見されたのは1960年代のこと。ヒザラガイという貝につく菌からで、その磁性物質は磁気テープなどでもおなじみのマグネタイトと呼ばれる酸化鉄であった。当初は磁性物質がなぜ生体に存在するかが不明だったのだが、その後ブレークモアによる磁性細菌の発見、さらにはサケやマグロ、ハトやミツバチなどからも磁性物質が発見されるにいたって、どうやらこれらの生物は地磁気を感知しているらしいということが明らかになってきた。

 磁性細菌はマグネトソームと呼ばれるマグネタイト微粒子を10〜20個ほど体内に保持している。磁石持ちの珍奇な細菌ということで、ブレークモアの発見以来、世界各地で磁性細菌探しがはじまったのだが、意外なことに磁性細菌はそれほど珍しいものではないことが分かった。湖沼や海底の泥の中に、ごくふつうに生育していたのである。しかし、身近に見つかるということから研究者が急増、やがて北半球に生息する磁性細菌は磁石のS極に向かい、南半球に生息する磁性細菌はN極に向かうということも判明した。回遊魚や昆虫の帰巣本能も、この磁性物質に関係するらしい。人類が羅針盤を発明するずっと以前に、動物たちは地磁気を感知する精緻な生体コンパスを手に入れていたというわけだ。


■がん患部へキラーT細胞を磁場で誘導

 磁性細菌は単なる生物学的な発見にとどまらず、医学をはじめとするさまざまな分野での応用にも期待がかけられている。

 たとえば酵素は生体内におけるさまざまな反応の触媒の働きをするタンパク質である。東京農工大学工学部資源応用化学科の松永是助教授は、この酵素に磁性細菌の磁気粒子を結合させると、外部磁石で磁気誘導できる酵素が得られることに着目、磁性細菌から磁気粒子を取り出し、痛風の原因となる尿素を分解する酵素に固定することに成功している。磁性細菌から得られた磁気粒子は、表面積も大きく分散性にもすぐれているため、人工の磁気粒子とくらべて、30〜40倍の酵素活性を示すことも明らかになった。また、体内で異物の認識を行うタンパク質である抗体に磁気粒子を固定し、外部磁場を加えて反応させると、抗原抗体反応は著しく促進されることも実験的に示されている。これらは、血中や汗の中のブドウ糖の感知センサなど、臨床検査への応用などに道を開くものとして注目されている。

 がん細胞をアタックするキラーT細胞に、磁性細菌の磁気粒子を導入する技術も研究されている。外部磁石を使って患部へキラーT細胞を誘導することにより、治療効果を向上させるのが狙いである。


■人間の脳にも磁性物質は存在する?

 磁性細菌の運動は特異である。泥の中を水平にではなく潜るように突き進むのは、地球の磁極を真っすぐ目指すからだが、これは酸素を嫌う性質がある磁性細菌にとってはつごうのよいことでもある。より有利な生育環境を求めて、生体コンパスが活用されているというわけだ。

 磁性細菌ばかりでなく、魚類・鳥類・昆虫、そして最近では人間の脳の中にも、微小磁石が存在すると主張する学者もいる。アメリカのカリフォルニア工科大学のカーシュビンクらの研究グループは、1992年に磁性細菌にみられるような磁性物質が、人間の脳の大部分に分布する証拠を見いだしたと発表して話題となった。これによって高圧線の下ではある種の病気の発生件数が多いことも説明できるという。現在のところ仮説の段階であり、まだ多くの学者は懐疑的な立場をとっているが、かのペニシリンの例もある。

 ペニシリンが臨床的に有効であると“再発見”されたのは、フレミングの報告から何と10年以上も経てからのことなのである。画期的な発見が、単に実証困難という理由から長らく放置されるということはよくあることなのだ。

 動物が地磁気を利用していることは疑いもない事実である。ならば知的動物といわれる人間もまた、地磁気感知という秘められた能力を保持していることも十分に考えられる。

 同様のことが磁気ネックレスをはじめとする磁気治療器についてもいえる。臨床的な有効性は証明されているのに、ミクロレベルでの理論が十分に確立されていないという理由から、その効果を疑うのは科学的とはいえない。古代ギリシアの時代から広く世界で利用されてきたという事実にこそ目を向けなければならない。

 磁気と生体との関係に科学のメスが入れられてからまだ日は浅い。生体磁気学は図りしれない可能性が広がる未知の研究フィールドなのである。



第5回「精神活動と磁気」
―脳細胞からの微小磁気のささやき―

■20歳すぎれば脳細胞は毎日10〜20万個が死滅

 「少年老い易く学成り難し」という。成人すれば仕事に時間が奪われ、また誘惑も多くなるものだが、単にそればかりでなく、脳の成長と老化をも言い表した名言である。

 人間の脳の重量は成人で通常1200〜1400g、約140億個の神経細胞からなるといわれる。成長するにつれ、これらの神経細胞は樹木が枝を広げるように、多数の突起を伸ばし、他の神経細胞と接合して、網の目のようなネットワークを張り巡らしていく。いわゆる“頭がよい”“勉強ができる”というのは、脳の重量や大きさとほとんど関係がなく、この神経細胞のネットワークいかんによるという。たくさんつながればつながるほど、頭の回転は速くなり、物覚えもよくなるらしい。

 ところが、早くも20歳を過ぎるころからネットワーク形成の勢いは衰え、健康生活を送っていても、1日に約10〜20万個の神経細胞が死滅していくという。しかも神経細胞は体細胞と違って、一度破壊されると再生することがない。若いころの勉強不足は、生涯にわたってたたるといっても過言ではないのだ。とはいえ20歳過ぎからボケがはじまるわけではない。脳の神経細胞はすべてがフルにはたらいているのではなく、その多くが未使用のまま眠っているから、これを賦活させればよいのである。高齢化社会の到来が叫ばれているが、必要なのは筋肉トレーニングよりも、むしろ“頭の体操”のほう。この意味においても、現代は生涯学習が求められる時代なのである。


■地磁気の10億分の1。脳が発する微小磁気

 脳から発生する電位変動を測定する装置に脳波計がある。頭皮に電極を貼りつけて、10〜100μVという微小電圧を電気的に増幅して記録する装置である。精神活動や感覚刺激、意識水準によって、特有の波形が得られるが、周波数によって、α(アルファ)波、β(ベータ)波、θ(シータ)波、δ(デルタ)波の4つに大別される。このうち8〜13ヘルツ帯のα波は、気分が落ち着いているときに発生する脳波として知られている。ストレス社会を反映してか、瞑想によってα波を生み出す訓練法だとか、リラックス気分に浸れるα波ミュージックなども人気のようだ。

 精神病の診断にも脳波計は欠かせない。しかし、微小電圧を数10万倍まで増幅するため、ノイズと信号の識別が難しい。そこで最近、注目を集めているのが、脳から発生する微小磁気を検知して、脳のはたらきを調べようという生体磁気測定システムである。磁気信号は神経細胞のパルス電流に伴って発生するもので、微弱ながら電圧信号と違って生体内で拡散しない性質がある。したがって、これを検知できれば、増幅してもきわめてノイズレスな生体情報が得られる。

 しかし、原理的には簡単ながら、生体磁気測定システムの実用化にあたっては、越えなければならない2つの技術的ハードルがあった。まず第1は微小磁気を検知できる高感度の磁気センサの開発。何しろ脳の皮質から発生する磁気は、地磁気の10億分の1ときわめて微弱だからだ。


■ジョセフソン効果を利用。高感度センサ「SQUID」

 いまひとつは、地磁気をはじめとする外部からの雑音磁気をシャットアウトするシールド技術である。

 星空を観測する天文台は、大気汚染とネオン公害を避けて、都会から離れた山のてっぺんに建設される。それと同様に、小さな宇宙である人体の磁気のささやきは、望遠鏡にあたる高感度のセンサがあるだけではキャッチできず、外部磁気を遮断する静寂な環境が必要不可欠なのである。

 生体磁気検知システムの開発にあたってブレークスルーとなったのは、超電導関連のエレクトロニクス技術である。

 従来のシリコン素子に代わる超高速コンピュータの演算素子として期待されているものにジョセフソン接合素子がある。液体ヘリウムで極低温状態にすると、わずかな磁場変化にも反応して、まるで忍者の壁抜けのように超電導電流を流すという素子である。1962年にケンブリッジ大学のジョセフソンが発見したことから、この不思議な特性はジョセフソン効果と呼ばれる。

 このジョセフソン接合素子を磁気センサとして利用したものが、SQUID(スキッド)と通称される超電導量子干渉素子である。磁場変化にきわめて敏感に反応するため、これまで不可能だった脳の微小磁気なども初めて検知できるようになった。SQUIDには交流型と直流型とがあるが、より高感度な検知が可能なのは直流型である。最近では検出部を集積した小さなチップ型素子も開発されている。


■精神活動を解明する鍵を握る生体磁気

 SQUIDの開発に呼応して、外部の雑音磁気の遮断にもさまざまな技術が応用されている。なかでもフェライト系超電導体を用いた磁気シールドは、極低温状態では電気抵抗がゼロになるという超電導現象を利用したもの。これはマイスナー効果と呼ばれるもので、外部の磁気を完全に排除してしまうので、磁気シールドにはうってつけなのである。この超伝導体でシールド容器やシールドルームを作り、SQUIDをセンサとし脳のようすを探ろうというのが生体磁気測定システムである。ヘルメットのように頭にかぶる小型の装置も開発されており、コンピュータ解析による脳磁場のカラー画像化も行われている。今後、てんかんやアルツハイマー病、脳の機能障害、また植物状態や脳死状態にある人間の脳のはたらきを調べるのにも大いに威力を発揮すると予想されている。

 人体は小さな宇宙であり、脳はその中枢である。その謎を解く鍵は、生体磁気にひそんでいることはまちがいない。ハイパワーの磁気ネックレスが肩こりをほぐすように、これまでかたくなに開国を拒んできた精神世界も生体磁気測定システムを突破口として、その姿を現そうとしている。近い将来、頭の中で考えていることが、すべて外部にイメージとして取り出せる装置が開発されないともかぎらないのだ。



第6回「植物と磁気」
―植物の成長促進にも関係、磁気は生命を活性化?―

■励ましに応え、情報交換をする植物

 植物には感覚がなく、動物のような自発的な運動をしないという固定観念が根強く残っている。このため植物の電磁気的現象の研究も、動物にくらべて大きく立ち遅れているのが現状である。しかし、植物には外部からの刺激を内部に伝えて対応するばかりでなく、何らかの方法によって仲間と情報交換を行っているとしか考えられない現象がごくふつうにみられる。

 ネムノキは昼間は葉を開き、夜は葉を閉じるという睡眠運動をすることにその名の由来があり、同じマメ科のオジギソウなどは、指先で触れただけで、葉を縮めてうなだれる顕著な傾性運動を示す。オジギソウの葉の基部には、運動細胞が集まった葉枕と呼ばれる部分がある。ナイフで傷つけたり、火で焼いたりすると、その刺激の影響は他の葉にまでおよぶ。刺激が活動電位となって伝播し、まるで筋肉運動のような動きをするのである。

 鉢植えの植物に、毎日の水やりのときに声をかけてやると成長がよくなるという実験報告もある。雪をかぶってしなだれている杉苗に、励ましながら雪をはらってやると、実際、すくすく伸びるものだと林業関係者らはいう。成長に有利な刺激が加わったとか、あるいは成長を阻害する要因が除去されたという理由だけでは説明しきれない何かがありそうなのである。


■磁気の作用で農作物の栽培促進

 磁石を土に挿しておくと、根の発育がよくなるという実験的事実は古くから知られている。そこで農作物の栽培促進に磁気を積極的に利用しようという研究も、世界各地で真剣に取り組まれている。

 大阪府立農業試験センターでは、ミカン、ブドウ、ビワなどの果実を対象とした磁気利用の実験が続けられている。別に大がかりな装置や施設がいるわけではない。果実が成熟する1〜2か月前、果実近くの小枝に肩こり用に市販されている磁石つき絆創膏を1個から数個貼り付けておき、収穫後に糖分を比較するという実験である。しかし、その結果はといえば、驚くべきものがある。ミカンで約1%、ビワで約2%、ブドウでは約5〜7%も糖度がアップ、実際に味わっても甘くておいしいうえ、ミカンは色つやなどの見た目もよくなったという。

 だからといって、磁気が人の美容や健康にも効果があると結論づけるのは短絡的である。実際、磁気が直接に糖度や色つやを向上させたというよりも、磁気の作用が成長を促進させた結果と考えたほうがよいという専門家もいる。種子段階での磁気による成長促進に関しては、内外で詳しい実験が行われている。トウモロコシやインゲンなどについては、種子をまく前に磁界を加えてやると、著しい成長を示すことが学会でも報告されている。


■磁気が原子を励起させ、ホルモンや酵素が活性化

 磁気の作用が植物の成長促進に効果があるのは、オーキシンなどの成長ホルモンを活性化させるからだという説も出されている。オーキシンは数ある植物ホルモンのうちの一種で、植物の屈光性や屈地性に関与することが分かっている。よく知られるヒマワリの花の首振り(転頭運動)もまた、茎におけるオーキシンの生産と分解に関係する。ただし、いつも花が太陽へ向くというのは俗説で、確かに成長がさかんなつぼみの段階では、転頭運動もみられるが、開花後はほぼ南向きで動かなくなる。また、この転頭運動はほかの花にも見られ、ヒマワリにかぎったことではない。

 受粉・受精しためしべの子房には、オーキシンが増加することから、オーキシンは結実にも大きな役割を果たしていることも知られている。オーキシンなどのホルモンや各種の酵素は、代謝に関わる重要な物質である。こうした物質を構成する原子の状態が、外部の何らかのエネルギーによって励起されると、代謝などの反応が起こりやすくなる。これを活性化という。光のエネルギーによってホルモンや酵素が活性化するように、磁気も同じ作用をしているとも考えられるのである。


■植物でさえ磁気が影響、まして人間にいたっては……

 磁気による植物の成長促進については、マスコミなどでもたびたび紹介されている。もし初耳ならばにわかに信じられない向きもあろうが、専門家や農業関係者にとっては周知の事実で、あれこれ疑問視すること自体がもはや机上の空論となりつつある。磁石の強い磁気ばかりでなく、微弱な地磁気に対してさえ植物は感受性があることも確認されている。いわんや人間においてをやである。

 コンクリートや鉄構物で囲まれて暮らす現代生活においては、ただでさえ減少傾向にある地磁気が遮断され、人体は極端に磁気不足の環境にある。これが肩こりや腰痛、またさまざまなストレスを生み出す一因にもなっていると指摘されているのだ。そこで、この地磁気不足を補うとともに、血液中のイオンに働きかけて、血行をよくしようというのが、磁気ネックレスや磁気ブレスレットである。その効果は医学的・統計的にも証明されているのだが、頭で納得するだけでなく、実際に着用してみなければ効果は得られない。これはいたって当然のことなのだが、多くの人間はそれに気づかない。

 人間というものはさまざまな錯覚に陥っているもので、健康に注意していると思い込んでいるだけで、実際は心身を酷使していることがよくある。コンピュータ社会はますますソフト重視に進んでいるが、ここにも大きな落とし穴がある。コンピュータ社会は人間にもコンピュータ同様の能力を求めはじめている。しかし、そのスピードにどうにか頭はついていけても、身体はついていけないから、心身のバランスが崩れ、知らず知らずにストレスがたまる。しかもコンピュータならばハードがモデルチェンジしても、ソフトは互換性があるから保たれる。だが、人間だれしも自分の身体はひとつきり、機械のように使い捨てるわけにはいかない。この単純な事実を人間はつい忘れてしまう。ハードである自分の身体の健康に注意を向けずに、頭さえしっかりしていれば大丈夫と錯覚しているのが多忙な現代人の姿である。コンピュータはソフトがなければただの箱であり、人間はハードを損ねればソフトもろともおしまいになるしかないのである。重ねていえば、磁気の効果を信じたり疑ったりするのは頭だが、それを実際に評価できるのは身体だけなのである。



第7回「地磁気逆転とバイオイベント」
―地磁気逆転は生物種の絶滅にも関連?―

■低気圧接近で頭痛や神経痛が起こるのは?

 世論や流行など、さまざまな社会現象の変化指標をバロメーターと呼んでいるが、これはもともとは気象観測で用いられる気圧計のこと。気圧が下がるのは、低気圧の接近すなわち天気が崩れることを意味する。この原理を身近に応用したものが晴雨計である。

 ところで昔から、頭痛や腰痛、神経痛、関節痛、あるいは古傷などが痛むときは雨が近い、などとよくいわれる。晴雨計がわりにそうした持病をもつ人に体の調子を聞いて、今後の天気を予測する人もいる。しかし、これはまったくの迷信とはいえず、気象変化は生理変化となって現れることは医学的にも明らかにされている。カナダのH・セリエのストレス学説も一般によく知られている。

 物理・化学的あるいは人間関係などによる心理的影響など、心身に傷害を与える刺激(ストレッサー)が加わりストレスが生まれると、人体はそれに対して防御反応を起こして抵抗しようとする。具体的には原始的・基本的な脳といわれる視床下部からACTH(副腎皮質刺激ホルモン)放出ホルモンが分泌され、その指令によって脳下垂体からACTHが放出される。これが副腎皮質に作用して副腎皮質ホルモンが分泌され、全身にゆきわたってストレスが解消される。低気圧の接近で頭痛や神経痛などが起きるのも、気象変化に対して生体システムが防御の方向に機能するためといわれる。


■あらゆる生物は磁場環境の変化に敏感

 地震や雷、オーロラなどの自然現象も、生体に微妙な影響を与えている。とりわけマメ科植物は外界からの刺激に敏感なようで、ネムノキの枝と大地間の電位差を観測してみると、地震が起きるたびに顕著な電位変化が現れるという。こうした電気現象ばかりでなく、地震活動に伴って自然の電磁波が放出されることも観測されている。またいうまでもなく、B・フランクリンが実証したように雷は電気現象であるから、雷もまた地上の電磁環境を乱すし、オーロラにいたっては、地球規模の磁気あらしを発生させる。

 生体磁石をもつことが明らかになっているミツバチやハトなどでは、地磁気変化に関連した異常行動が数多く観察されている。一例をあげれば、磁気あらしなどで地磁気が乱れると、ミツバチの食料収集の行動やスケジュールに異変があるという。人間もまた磁場環境の変化に微妙な影響を受けているのではないかと考えるのは当然である。ただ、本能によって規則的な生活を営むミツバチと違い、意識をもつ人間の場合は行動や症状が複雑なため、磁場環境の影響を実証することが困難である。これが人体と磁気との関連の研究を遅れさせている理由のひとつになっている。

■地磁気の乱れは血栓病を誘発する?

 しかし、深海や宇宙といった新世界への進出が開始されるに伴い、特殊な磁場環境における人体の生理変化の研究もめざましく進展するようになった。たとえば、深海で航行する潜水艦の中では、人体はほぼ完全に地磁気から遮断される。また、宇宙船に乗り込む宇宙飛行士は、有害な宇宙線から人体を保護するために、強い人工磁場の環境下に置かれる。こうした自然状態とは異なる磁場環境で起こる人体の生理変化についての研究は、まず米ソを中心に1950年代ごろからはじまったが、その後、純粋に学術的なテーマとして、世界各国で関心がもたれるようになった。

 その結果、数々の興味ある事実が続々と報告されてきた。たとえば血圧や脈拍数、白血球の増減などは、地磁気の日変化と密接な関連があること、また地磁気変化は人間の精神・神経活動にもさまざまな影響となって現れることなどが、しだいに明らかにされてきたのである。磁気あらしのときには、ほとんどの人に交感神経の緊張がみられ、航空機のパイロットの操縦ミスと無関係ではないとも指摘されている。とりわけ血液に対する影響は無視しがたく、地磁気変化に対応して白血球数が増減するばかりでなく、血液凝固系の機能にも異常をきたして、血栓病などを起こす確率が高くなるともいわれる。また、皮膚の電位分布にも乱れを生じさせることが判明しているが、これは体液やホルモンバランスが崩れることにより、内部器官に変化が起きたためと説明されている。

■地磁気逆転とバイオイベントとの相関関係

 磁気あらしは、ふつう数日間でおさまるものだが、数十万年という長周期で繰り返されている地磁気逆転という現象は、地球の生命にどんな異変をもたらすのだろうか。これは現在でもなお未知の問題として残されたままだ。

 地球の磁極は少なくとも過去400万年の間に、およそ10回の逆転現象を起こしており、最も新しい地磁気逆転は今から73万年前に起きている。これは旧石器時代人がアフリカからヨーロッパへと移住を開始した時期といわれている。

 生物進化の歴史において、しばしば断絶的に現れるバイオイベント(生物史の大変動)と、地磁気逆転とはまったく無関係ではないという。実際、地層に堆積されている過去の動植物の化石を丹念に調べてみると、生物相の急変と地磁気逆転の時期は不思議に深い関連を示しているのである。たとえば、地磁気逆転の頻度が高かった約5億年前ごろは、光合成植物の繁栄によって大気中の酸素が急激に増加し、古生代を代表する三葉虫が出現した時代でもある。また、恐竜や現生人類ホモ・サピエンスの登場も、地磁気逆転の時期と一致するという。地磁気逆転はある種の生物の絶滅をもたらすとともに、新たな種の出現のステージを用意するきっかけになってきたともいえるのだ。さらには、過去数十年間の統計だけをみても、地磁気の増減は天然痘やポリオなどの伝染病の流行とも明らかな相関関係にある。

 もちろん、だからといって地磁気がゼロになるという2000年後に、人類の終末を重ね合わせるのは短絡的だ。英知と技術をもつにいたった人類にとって、もはや地磁気逆転は種の存続を左右するような決定的な問題とはならないだろう。しかし、地磁気減少のうえに鉄に囲まれた生活環境は、ストレスや肩こり、各種疾病の原因にもなり、現代人の寿命を縮めていることはほぼ間違いのないようだ。たとえ人類という種の寿命は永遠と想定されても、だれしも人生は1回きり。宇宙の歴史の中では一瞬ともいえる短い人生を充実させるためにも、地磁気不足を補う磁気治療器を大いに活用したいものである。



第8回「脳のはたらきと磁気(1)」
―人の心は微弱な磁気にも揺れ動く―

■神経ホルモンの分泌で情報伝達

 人間が他の動物と異なって、高度な精神活動を行うのは、進化の過程でなぜか大脳が異常に大きく発達したためといわれる。大脳は左右2つに分離していて、左脳は理性的・論理的能力に関係していて、右脳はどちらかというと感情的なはたらきをつかさどるといわれる。しかし、人間の精神活動はどちらか一方だけでは成立せず、両者が相まってはじめて生み出される。これを初めて解明したのがアメリカの心理学者R・スペリーで、この功績により1981年にノーベル賞受賞の栄誉に輝いた。コンピュータでたとえるなら、いわば左脳はデジタル型であり、右脳はアナログ型。現代の日本人の頭脳は○×思考というかデジタル型すなわち左脳偏重の傾向があるが、創造的な思考をするためには、もっと右脳を使う必要があるとも指摘され、右脳開発のための指南書や訓練法が一時期流行したのはご存じの通り。

 人間の脳は神経伝達物質と呼ばれる各種の神経ホルモンの分泌で情報伝達が行われている。神経繊維を流れる電流は、その分泌を促す刺激にすぎない。つまり神経繊維はスイッチのオン/オフのようにデジタル的にはたらくが、情報を伝達するシナプスにおいては、神経伝達物質の分泌量の多少が情報に関わるために、アナログ的に機能しているということもできる。


■脳波にも影響を与える磁気変化

 ところで、地磁気のような微弱な磁場の変化も、心臓血管系の病気が悪化したり、女性の月経周期を乱れさせたりすることはよく知られる事実である。人間の頭脳もまた、本人は冷静沈着な論理思考をしているつもりでも、意外と外部環境の影響を受けている。これが0か1かの組み合わせで情報を伝達するコンピュータとの決定的な違い。人の心は秋の空にもたとえられるように、雰囲気によってたえず揺れ動く理由でもある。

 近年、地磁気をほとんどシャットアウトできる高性能な磁気シールドが開発されてきているが、地磁気が完全に遮断された場合、人体や精神活動にはいったいどのような変化がみられるのか。こうした研究ははじまってからまだ日が浅いが、いくつもの興味ある現象が観察されている。

 間欠的に閃光を浴びせる実験を自然環境下と人工的に磁気が遮断された空間とで比較した場合、網膜刺激による視覚の臨界値に明らかな違いがみられるという。また、人体にある周波数の変化磁場を加えた場合、自然環境下ではみられない脳波の変化が現れ、疲労や頭痛などの症状を起こすともいう。精神分裂病の症例を調べてみると、地磁気活動の乱れと発作の時期がきわめてよく一致し、てんかん発作は逆に地磁気の安定した年に起こりやすいという報告もある。てんかん発作は脳内のニューロンの一部または全部が、瞬間的に過剰な同期に陥って放電したときに発生する。木漏れ日の刺激だとか、波光のきらめきなどが引き金になって発作が起こることはよくあることだ。ただ、この瞬間的な放電が、外部もしくは内部の磁気変化によっても引き起こされるらしいのだが、臨床的に十分には解明されていない。


■内外を隔てる生体膜の窓口がレセプター

 人間の脳はおよそ数100億個の神経細胞からなる。これら神経細胞の一部からは細長い神経繊維が伸びており、情報を受け取る標的細胞に貼り付いている。神経繊維末端と標的細胞の接合部はシナプスと呼ばれる。神経繊維末端からは、神経伝達物質と呼ばれる各種の神経ホルモンが分泌されるが、神経ホルモンは小型タンパク質ともいうべきペプチドなので、0か1かのデジタル信号と違って情報量が格段に多い。標的細胞のレセプター(受容器)は、このペプチドを受け止めて情報をキャッチしているのである。

 このレセプターがいかにして情報伝達物質を受容しているかは、脳という生体コンピュータの仕組みを理解するうえで、きわめて重要である。情報伝達物質のひとつであるアセチルコリンのレセプターについて、その全化学構造をみごとに解明してみせたのは京都大学の沼正作教授らの研究グループ。1983年のことである。

 さて、ここで注目すべきことは、神経細胞の膜構造である。この細胞膜は一般には生体膜と呼ばれていて、多数の脂質分子が寄り集まった薄い二重膜になっている。この生体膜は内外を隔てる垣根のようなものであるが、ところどころに情報伝達物質を受け入れる窓口を設けている。タンパク質からなるレセプターもこうした窓口の1つとなっているのである。


■外部磁場によって神経細胞の興奮度が変わる?

 生体膜は細胞活動に必要な物質の透過をチェックする重要なはたらきをしているのだが、その透過性は磁場によって大きく変化することも判明している。つまり脳の活動をコントロールする生化学的プロセスは、地磁気をはじめとする外部磁場の変化と密接な関係がある。言いかえれば外部磁気は神経細胞の生体膜に影響して、脳の活動機能に変化を与えているわけである。また、細胞の内外では、Na
+(ナトリウム)やk+(カリウム)などのイオンが一定の濃度差に保たれているが、これはナトリウム・ポンプと呼ばれる生体膜の能動的な輸送機能によって維持されている。ところが、外部磁場によって、このイオンの輸送系にも変化が生じ、神経細胞の興奮度が変わってしまうともいう。

 しかし、現代のように地磁気が減少傾向にあるうえにさまざまな鉄構造物の内部で生活している都市生活者などは、慢性的な磁気不足の状態に陥っているといわれる。さまざまなストレスが蓄積しやすいのも微弱な磁場変化と関係があるともいえそうだ。脳の活動に対する磁場の影響については近年、関心が高まっているものの研究は始まったばかりで、いまだに謎も多い。しかし、磁気ネックレスをはじめとする磁気治療器は、肩こり解消などに有効性があることはすでに医学的に実証されている。血行をよくすることで間接的にではあれ、精神にも安らぎを与える効果があることは確かなようだ。



第9回「脳のはたらきと磁気(2)」
―睡眠や夢、精神活動にも磁気が関係?―

■恐竜は何を夢みていた?

 ナポレオンは日に3時間しか眠らなかったというのは有名な話だが、脳の正常な活動のためにも、健康のためにも、快適な睡眠は人間にとって欠かせない。精神活動によって大脳皮質ではドーパミンと呼ばれるホルモンが消費されてしまうが、そのドーパミンを貯蔵するための時間が睡眠だといわれる。ドーパミンが十分に貯まったところで分泌がはじまり、人は眠りから覚めるといわれる。早い話が人は毎晩、脳内覚醒物質をせっせと生産していることになる。

 長時間でも眠りが浅ければ睡眠不足となり、深い眠りなら短時間でも元気に起き上がれる。人の睡眠は一部覚醒しているレム睡眠(逆説睡眠)とノンレム睡眠(徐波睡眠)の2タイプに大きく分けられる。通常の眠りにおいては、熟睡状態のノンレム睡眠が約90分続いたあとに約20分間のレム睡眠が訪れ、これが4〜5回繰り返されて目が覚める。いわゆる夢をみるのはレム睡眠のときで、眼球が激しく動き回ることから観察者はそれを察知できる。

 レム睡眠は鳥類以上の脊椎動物の現象で、冷血動物であるカメやトカゲなどは夢らしい夢はみないらしい。恐竜は温血動物だったという説もあるから、生物進化史上の謎とされる突然の絶滅は、恐竜がこわい夢をみるようになったことが原因なのかもしれない。そうだとすると妄想たくましい人間などは、よほどタフな生物ともいえる。


■人間の頭から磁場が発生する

 枕の下に宝船の絵を置いて寝ると、縁起のよい初夢がみられるという言い伝えがある。それでは睡眠中の人間の頭近くに磁石を置いたらどうなるか。実験報告によれば、磁石の位置の移動によって睡眠状態が変わることは明らかだという。DNAを発見したF・クリックは、レム睡眠は不要な情報(記憶)を消すためにあるという仮説を提唱している。伝説においてはバクは夢を食う動物といわれるが、目覚めても記憶している夢は、さしずめバクの食い残しであろうか。

 それはさておき、人間の頭のまわりには、たえず微弱な磁場が発生している。これは1960年代の半ば、脳波研究の際に発見されたもので、α波を生み出す電流による磁場と考えられている。また、本シリーズの第5回で紹介したように、最近では高感度の磁気センサの開発で、より微弱な磁場の計測も可能になり、詳しい脳磁図(MEG)が得られるようになったため、脳腫瘍、脳内出血、てんかんなどの診断のほか、脳と精神活動の研究にも利用されている。この磁気センサは「SQUID(スキッド)」と呼ばれ、超電導電流を流すジョセフソン素子を利用したものである。


■超電導現象が脳内でも起きている?

 ミツバチやハトなどに検出される体内磁石も、超電導と関係があるのではないかという大胆な「生物超電導仮説」が打ち出されている。ジョセフソン素子が磁場変化に敏感に反応するように、体内磁石が微弱な地磁気変化をキャッチできるのは、超電導現象を生物がうまく取り入れているからだというのである。

 超電導というのは、ある温度以下で突然、電気抵抗がゼロになる現象をいう。電気抵抗がなくなるので、電流は永久に流れ回るようになる。ところが、加えられる磁場が変化すると超電導性は失われて、電流に突然ブレーキがかかってしまう。このような超電導現象を示す材料として、一部の金属や合金、特殊なセラミック材料が知られているが、薄い無機質の膜や、高分子膜でも同様の現象が起きることが実験的に証明されている。

 さらには生物超電導の存在を有望視させるものとして、「カール効果」と呼ばれるものがある。これは生体を高周波の高電圧場に置くと、表面から熱運動をしていない電子が放出されるという現象で、生物導体に超電導領域を想定しないことには説明できないという。東洋医学のいわゆるツボ(経穴)が、なぜか高い電気伝導性を示すのも、超電導領域と関係があると考えられるようになってきている。

 しかし、想定される生物超電導による電流変化はきわめて小さい。磁気センサならば信号を電気的に増幅できるが、生物は体内のどこで増幅して感知するのか。最近の研究によれば、どうやら脳の中にその増幅器があるらしい。


■豹変する人の心と「相転移」

 ちょっとしたことにも驚いたり喜んだり、人の心が外部の小さな変化を敏感にキャッチして、体全体で反応することは日常的に体験することである。インプットとアウトプットだけをみると、人体の信号増幅作用はきわめて大きい。それよりも不思議なのは、なぜかくも人の心はコロコロと変わりうるのかということだ。何かの拍子にハッと気持ちが切り替わる速さは、秋の空どころではない瞬間的な変化である。

 これと似たような物理現象として「相転移」と呼ばれるものがある。液体がある温度でいきなり結晶化したり、磁性材料の磁気双極子の向きが、キュリー点と呼ばれる温度で、突然反転したりする現象など、マクロの様相が一変する相転移は自然界には珍しくない。近年、脳における精神活動も、きわめて飛躍的変化を示すこの相転移と関係があるのではないかと考えられるようになってきた。わずかな地磁気変化により、生物が敏感に反応する理由も相転移で説明できそうである。

 やはり相転移が関係しているのか、このことにハタと気づいたのはコンピュータではなくて、研究者の頭脳である。コンピュータは、このハタという認識が苦手である。人の心の不思議さの理解は、ソリッドステートなコンピュータの能力を超えているのだ。とはいえ、人間の頭脳には錯覚に陥りやすいという決定的な弱みがある。たとえば、やっかいな問題は自己暗示にかけて回避したり、ごまかしてしまうというのも人間ならではの習性。ワーカホリックが突然死に襲われるのも、疲れを頭でごまかしているからで、体のほうは正直だから積もり積もったストレスが一気に噴出するのだ。

 しかし、ハタと悟ることができるのが人間の頭脳の優れたところ。心身を酷使していることにハタと気づいたなら、スポーツやレジャーで心身バランスを取り戻したい。多忙で無理ならせめて磁気ネックレスを身につけるなどして、ストレスによる肩こりは解消しておきたいものだ。



第10回「脳のはたらきと磁気(3)」
―記憶は磁気環境にも左右される?―

■コンピュータと異なる頭脳の記憶方式

 かつて人体の秘境とされた脳と心の世界は今、神経科学や心理学、分子生物学などの急速な発展により、その神秘のベールがしだいにはがされつつある。また、コンピュータを中心とした情報科学では、限りなく人間の頭脳に接近した人工知能の開発を近い将来、射程内に入れている。

 コンピュータ登場以来、人間の頭脳とコンピュータとはアナロジカルにとらえられがちだが、情報の記録・保持・再生といったコンピュータの処理機構は、生身の人間の頭脳とは似て非なるもの。情報処理装置と記憶装置とが分離しているコンピュータと違い、人間の頭脳は両者が統合されている。つまり人間においては、学習中に起こる脳神経系の変化がそのまま記憶として保存されるらしい。これは“神経系の可塑性”という特質で、この可塑性と磁気が密接につながっていて記憶機能にも影響を与えるといわれる。

 初めて訪れた土地をまるで以前見たことのある景色のように、懐かしく感じることがある。既視感とか既視体験、フランス語で“デジャ・ビュ”と呼ばれる現象である。デジャ・ビュにかぎらず、ある情景とか感覚的刺激をきっかけに、過去の記憶がイモヅル式に現出するというのは珍しいことではない。これからも推測できるように、LSIやフロッピーディスクなどに、番地をつけて情報を整理・格納するコンピュータシステムと、人間の頭脳の記憶方式は大きく異なる。ラジカセやビデオの磁気ヘッドのように情報を記録・再生・消去するようなモデルを想定しては、人間の心の不思議は解けない。


■長期記憶は気持ちと密接につながる

 心に浮かぶ記憶と単なる空想や妄想の違いは、明らかに過去の出来事であるという確信の有無にある。確信とは頭脳領域だけでなく、気持ちのあり方とも関わっているのだ。

 人間の記憶は短期記憶と長期記憶とに大きく区分される。試験直前、ツメコミ式に覚えた知識は、時間とともに雲散霧消するが、記憶喪失に陥らない限り自分の誕生日などを忘れることはない。長期記憶はどこに、どのように貯蔵されるのかは正確には不明だが、大脳辺縁系の海馬は記憶の宝庫とも呼ばれ、精力的に研究されている部位。この海馬の神経細胞に電気刺激を加えると、シナプス中のカルシウム濃度が変化、それにより上昇した電位変化は刺激を止めても長期間にわたり保持されることが明らかになっている。

 どうやら長期記憶は、その時々の気持ちに付随して保持されるらしい。可塑的な脳神経系の揺れ動くある瞬間をとらえたとき、忘れられていた記憶が次々と開花する。この不思議な機能に重要な役割をもつのが体液である。

 細胞液は細胞膜をはさんで、細胞外液と細胞内液とに分けられる。細胞膜はリン脂質の二重層とタンパク質からなる生体膜で、内外の細胞液の電解質濃度の差が一定に保たれることにより、イオン化した溶質の輸送が行われている。この電解質濃度の変化は体液の表面張力や粘性、電気抵抗などの物理化学的な差となって現れ、人体の生理作用にも微妙な影響を与えている。また、体液の大部分を占めるのが水である。異なる風土・気候の土地になじめないことを“水が合わない”という。これは単に気のせいではすまされない重要な問題を含んでいる。


■ハタと思い出す一瞬にひそむ謎

 水は電気的には中性だが、分子レベルではわずかに分極していて、ちょうど小さな磁石の集まりのように、くっついたり離れたりしている。その状態はMRI(核磁気共鳴映像装置)によって、詳しく調べることができる。磁場の中に水を置き、高周波をかけると、分子集団の大きさにより、異なった周波数の信号が得られる。“気のせい”とか“何となく”といった気分の問題は、客観的な実証性に欠けるためなおざりにされがちだが、水の物理化学的性質のわずかな違いが、人体に与えている影響は大きいのだ。

 しかも、水分子は電気的に分極しているため磁場変化に敏感。何かの拍子にハタと難問が解けたり、忘れていた過去の記憶が鮮やかによみがえったりすることはよくあることだ。その科学的なメカニズムは明らかにされていないが、この現象は結晶構造がある温度で急変化したり、液体が固体になったりする「相転移」現象ときわめて似通っていることが指摘されている。人間の精神活動でも、このハタと変化する一瞬に、大いなる謎が潜んでいるようである。

 近ごろ物理学や工学分野で“カオス”という用語が頻繁に飛び交っている。カオスとは混沌という意味で、これまで不規則で扱いにくかった現象に法則性を見いだす研究の過程で使われだした用語である。近年、コンピュータにより、一見デタラメな現象は、簡単な規則の繰り返しから生じていることが解明されてきた。複雑な自然現象の背後にも、ある種のパラダイム(理論的枠組み)があり、これが複雑さと秩序とを同時にもたらしているというのである。


■神経系の可塑性と磁気の関わり

 人間の記憶機能も、このカオス現象と深いつながりがあるらしい。記憶はひとつの体験のようなものであり、その体験は特定の気持ちと結びつき、その気持ちのパラダイムに従って、無限ともいえる記憶が詰め込まれているというのだ。最近ではカオス現象を情報圧縮技術として応用したカオスコンピュータの開発ももくろまれているほどである。

 また、脳神経系の神経細胞は、外部の指令によらずに自己組織的に構造変化する。このカオス的な自己組織化こそ脳神経系の可塑性の要因であり、外部の磁気変化は微妙な可塑的変化の引き金になっているとも考えられている。でなければ千変万化する人間の心の変化や走馬灯のようによみがえる記憶の不思議さを説明することはできない。

 ところで、とかく頭でっかちな現代人は、身体をないがしろにし、心身バランスを崩しがちである。しかも、ただでさえ地磁気が減少していることに加えて、鉄やコンクリートに囲まれた都市で暮らす現代人は極端な磁気不足に見舞われ、さまざまなストレスの要因になっているという。

 血液は生命活動に必要なさまざまなイオンを含む電解質溶液の流れであり、それは微弱な電流とみなすことができる。したがって外部磁場が加わると“フレミングの法則”により力が発生、これが血行を促進して肩こりなどの症状をやわらげる。これが磁気ネックレスをはじめとする磁気治療器の効果の科学的原理。その有効性は医学的にも実証されているのに、その恩恵に浴さない現代人が多いのも頭脳偏重の時代の反映だろうか。

 人間の頭脳はコンピュータと違い、記憶違いやうろ覚えがつきものだが、自由な連想、豊かな独創力などはスーパーコンピュータも太刀打ちできない。この驚異の能力をもたらすのは脳神経系の可塑性、人間がソリッドステートではなく血の通う生身の身体からなるからにほかならない。



第11回「バイオリズムと磁気」
―地磁気と人体の不協和音―

■自然リズムに合致しない現代の都市生活

 「早起きは三文の得」という。朝早く起きると何かよいことがあるという意味だが、三文ではあまりにわずかだから、「三文の徳」と表されることもある。しかし、それらはいずれも皮相な解釈にすぎない。夜更かしや朝寝坊の生活を続けると、昼夜のリズムと生体のリズムの不調和が起き、やがて健康を害して医者のお世話になることになる。医薬の費用が高いのは昔も今も同じこと。わずか三文でもプラスはプラス、マイナスの医療費の出費との差は大きい。病気になって初めて健康の有り難さを知るというが、このことわざの真意もそこにある。

 現代社会は便利なようで、不便なところがある。たとえば昔の人は目覚まし時計がなくても、朝日が昇るころになると、ごく自然に寝床から離れられたもの。ところが、現代都市は不夜城化して昼夜のリズムを失っている。加えて国際化の進行で海外旅行や海外出張もあたりまえとなり、時差ぼけなどと言おうものなら、逆に何を寝ぼけたことをと笑われそうな時代。自然が刻むリズムではなく、さまざまな世界時計に、無理やり生体リズムを合わせなければならないのが現代人なのである。


■バイオリズムを支配する生物時計は複数

 睡眠ばかりでなく体温や代謝なども、周期的変動を示すことが知られており、一般にバイオリズムと呼ばれている。バイオリズムは約24時間の概日リズム、約30日の概月リズム、約1年の概年リズムのほか、20時間以下や28時間以上の周期など、いくつもの固有の周期が重なり合い、構成される。バイオリズムを動かしているのは、体内にある生物時計。環境条件の変化に対して自律的なリズムを刻むとともに、その変化に同調していく生体のしくみのことをいう。時差ぼけが起きるのも直るのも、この生物時計の乱れと、同調で説明することができる。

 人間のバイオリズムに固有の周期がいくつかあるのは、生物時計が複数存在することを示しているが、その本体がどこにあるかは詳しくは解明されていない。時間意識を有するのは脳なのだが、だからといって生物時計は脳に集中しているわけではなく、他の器官にも存在するらしい。だからこそ、頭はスッキリしているのに体がだるいとか、逆に体はエネルギッシュなのにやる気が起こらないなどというようなことも経験する。複数の生物時計が勝手なリズムを刻んで乱れてくると、それによって人体の調子も微妙な揺れ動きを示すのである。


■地磁気がバイオリズムに関係する?

 地球の自転と公転による昼夜と季節の周期が、生物時計のひとつの基準となっているのは明らかだが、地磁気もバイオリズムに関係しているらしい。たとえば、女性の月経周期は通常25〜35日の範囲内にあるが、月経開始が地磁気活動度に依存することも統計的に明らかにされている。月経は地磁気活動のレベルが低い日に開始することが多く、レベルが高い日には逆に少なくなるというのである。また、地磁気活動のレベルが低いときほど、月経周期は短くなる傾向があるという。

 出産も地磁気活動の高い時間帯になぜか顕著である。さらには、受胎時の地磁気活動のレベルと、神経活動のタイプとには明らかな関係がみられるという報告もある。星占いのように生年月日で人間の性格や運命が決まるわけではないが、受胎時の地磁気の状態は人体の機能や成長に微妙な影響を与えていることは確かなようである。

 地磁気は過去400万年の間に、少なくとも10回逆転している。こうした永年変化のほかに太陽風の影響による磁気あらしのような短期変化を繰り返している。地磁気活動は地球のバイオリズムのひとつにもたとえられるだろう。生物は自然界の一員である以上、地球のバイオリズムに同調しないことには生命活動が危ぶまれるのは当然である。


■磁気環境悪化は冷房病のように影響

 海岸の生物が潮汐のリズムに合わせて活動するように、人間の身体も自然リズムに同調するようにはたらく。自然リズムと生物時計のズレは多かれ少なかれ生じるものだが、このズレを回復するような調節機能が人間の身体にもある。ところが、地磁気活動は人間の感覚ではとらえられない。そのうえ技術文明の発展は目まぐるしく、いつしか社会リズムと自然リズムとの間に大きなズレが生じてしまった。現代社会が必然的にストレスを生み出す理由でもある。問題なのは都市生活者においては、このズレを回復するどころか、増幅するような環境で暮らしていることにある。

 現在、地磁気は周期的な永年変化の中で減少過程にあり、やがて2000年後にはゼロになってしまうという。ところが、ただでさえ減少している地磁気をコンクリートや鉄で遮蔽して、都市生活者は極端な磁気不足の状態に陥っている。その地磁気さえも身の回りの電気設備や電子機器などの影響によって、撹乱されているのが現状である。

 磁気環境を室温にたとえるなら、冷房病のような弊害が現代人に現れ始めている。建物内外あるいは部屋ごとの温度差が大きく、体温調節機能が混乱して身体がまいってしまうのが冷房病。同様に人為による磁気環境の乱れは、身体の生物時計を混乱させ、身体に冷房病と似た影響を与えているといえよう。磁気環境の悪化は心臓病や精神病の発作の誘因となるばかりでなく、各種ストレス、過労死、突然死などを引き起こしているとも指摘されている。

 このような時代だからこそ、磁気ネックレスをはじめとする磁気治療器の果たすべき役割は大きい。身の回りの磁気環境は、室温のように簡単にコントロールすることはできないが、磁気ネックレスならば着用しているだけで、たえず安定した磁気を人体に補給してくれる。ミクロコスモスである人体を地磁気の乱れから守ってくれる頼もしい磁気バリアとなるかもしれない。



第12回「プロテイン・エンジニアリングと磁気」
―血液循環は水とタンパク質の電磁気的連鎖―

■タンパク質にこそ生命現象の謎がひそむ

 遺伝子の本体であるDNAの二重らせん構造が発見されたのは1953年。DNAの塩基配列によりタンパク質が生産され、すべての生命体が形成されるという驚異的な事実も明らかになり、生命現象を分子レベルで解明しようとする分子生物学が誕生した。すでに遺伝子組み換えによる医薬品生産、細胞融合などによる品種改良なども行われており、きたるべき21世はバイオテクノロジーの時代とまでいわれる。

 このバイオブームを後押ししたのは、近年のオートメーションとコンピュータの発達。人間の遺伝子は約10万個あり、そこに約30億対の塩基配列が記録されているといわれるが、そのすべてを解読しようという遠大な計画が現在、国際協力で進められている。人の手だけでは膨大な時間を要する解読作業も、自動解読装置の開発とコンピュータにより、大幅な時間短縮が可能になったのである。とはいえ、生命現象は塩基配列に還元できるものではないようだ。塩基配列はタンパク質の設計図にすぎず、作られたタンパク質の複雑な機能は、その設計図だけで予測できるものではないという。塩基配列よりも、むしろタンパク質そのものの構造と機能のほうに研究の目を向けるべきという意見も強く、最近ではバイオテクノロジーの一分野であるプロテイン・エンジニアリングに熱い眼差しが注がれている。


■タンパク質の生物活性はアミノ酸の配列しだい

 人体細胞の重量の約70%は水分で占められるが、残り30%のほとんどは、タンパク質である。筋肉、内臓、血球など、人体は数10万種類ものタンパク質で構成されており、またひとつの細胞には数億個のタンパクが含まれているという。しかし、人体の多種多様なタンパク質を構成しているのは、たった20種類のアミノ酸なのである。

 あるアミノ酸のカルボキシル基と、もう一方のアミノ酸のアミノ基が、脱水縮合することをペプチド結合といい、このペプチド結合によって、複数個のアミノ酸が連なったものをポリペプチドという。一般にタンパク質と呼ばれているのは、50個以上のアミノ酸からなる分子量の大きなポリペプチド。しかし、ポリペプチドとして分類されるすべての化合物が、タンパク質というわけではない。タンパク質としての資格を有するには、しっかりとした立体構造と生物活性をもったポリペプチドでなければならないのだ。ポリペプチドはアミノ酸の配列しだいで、生物活性をもったりもたなかったりする。これは生命現象の秘密の扉を開くうえできわめて重要な問題を提示している。


■外部磁場によって向きを変えるタンパク質


 巨大な分子量をもつタンパク質は、伸ばせば長いひも状(1次構造)となる高分子化合物である。通常、らせん状やシート状(2次構造)となり、それが原子団の電気的な引き合いや反発により、特定の部分で折り曲げられ、重なり合って、コンパクトな立体構造に縮まっている(3次構造)。タンパク質の結晶が得られるのは、この折り畳まれ方がでたらめではなく、一定の秩序があるからである。
 ところで、ある種のタンパク質に外部から磁場を加えると、タンパク質分子が伸縮して、液状からゲル状に変化したりすることが知られている。血液凝固に関わりのあるフィブリノーゲンと呼ばれるタンパク質では、外部磁場によって、2次構造のらせん軸の向きが磁場に平行に配向する。また、多くのタンパク質は生体内で起きる化学反応の触媒として働いており、この種のタンパク質は酵素と呼ばれる。この酵素の活性も外部磁場の影響を受けることが明らかにされている。成長促進のために種子をまく前に磁場にさらしたり、結実前の果樹の枝に磁石をとりつけたりするといった農業面での応用はすでに各地でさかんである。


■磁気治療の可能性を拡大。プロテイン・デザイン

 酵素をはじめとするタンパク質の機能が、外部磁場に大きく左右されるという事実は、地磁気変化が人体機能に影響をおよぼしているという多くの研究結果に符合するものである。磁気は感覚器官でキャッチできないが、人体にとって主要な環境要素のひとつなのである。ところが現在、地磁気は減少傾向にあるうえに、鉄筋コンクリートの建物や電車、自動車など、地磁気を遮断するような空間内での生活を現代人は強いられ、とりわけ都市生活者は極端に磁気不足にあるという。

 確かに生体のしくみは現代科学を総動員しても、なお解明できないほど複雑であり、磁気治療の効果を客観的・因果的に説明することは困難をきわめる。しかし、磁気ネックレスのような磁気治療器は血行をよくして筋肉をほぐし、肩こりなどに有効であることは臨床的にもすでに実証ずみである。しかも、血液こそはあらゆる病気とその治療の要であると指摘する専門家も多い。地球が水と大気の大循環によって、たえざる新陳代謝を続けているととらえるならば、ミクロコスモスとも、小さな地球ともいわれる人体もまた、血行という大循環が健康維持の基本になっていることはうなづけよう。

 血行は単なる血液の流れ、養分の補給とみなすのは皮相な考え方である。血行という人体の大循環を分子レベルでとらえれば、それは人体を構成する水とタンパク質の電磁気的連鎖のプロセスということになり、外部磁場との密接な関わりがあるのは確実なのである。

 タンパク質は巨大な高分子であるため、これまでその電磁気的なダイナミクスは想像の域を脱しなかった。しかし、CGをはじめとするコンピュータ技術の進歩は、タンパク質の精緻な立体構造はもとより、その複雑な機能までも明らかにしようとしている。自然界にない新しい機能をもったタンパク質を自由に設計するというプロテイン・デザインは、遺伝子組み換えに続く第3世代のバイオテクノロジーといわれるが、磁気治療の有効性を分子レベルで解明するうえでも、また新たな磁気治療の可能性を切り開くうえでも大きな期待が寄せられているのである。



第13回「磁気と水」
―水分子のネットワークが磁場変化をキャッチ?―

■ミクロとマクロの水循環は連鎖している

 人体を構成する細胞は、血液、リンパ液、細胞間液などの体液に浸っている。体液の成分が海水に似通っているのは、人類の遠い祖先が海生生物であったことを物語る。物質循環で考えると、体内環境と地球環境との連鎖に欠かせないのが水である。水循環により維持されているのは、地球生態系だけでなく、人体のホメオスタシス(恒常性)も同様で、それゆえに人体は小さな地球=ミクロコスモスにたとえられるのだろう。19世紀フランスの生理学者ベルナールが、人体の内部環境の巧妙さに注目して、“体内の海”と表現したのもうなづける。人間とはまさに“歩く水惑星”なのである。

 成人では体重の約50%が体液だが、生まれたての赤ちゃんではそれが約80%にものぼる。人間だれでも年とともにシワが増えるのは、体内の水分が減ってくるためで、ふだんから水分をたっぷり補給することは、肌の美容ばかりか健康にもよいという。しかし、水分を過剰に補給したところで、赤ちゃんのようなみずみずしい肌と、若々しさを取り戻せるわけではない。人体を構成するタンパク質と水が生理的に結合しないかぎり、いくら補給しても排泄されるか、水太りになってしまうだけなのである。


■水は不思議な性質をもつ物質

 水は1個の酸素原子(O)と2個の水素原子(H)からなり、化学式H
2Oで表される。水惑星に生きるわれわれにとっては、実にありふれた物質でありながら、不思議な性質をもつことは、あまり知られていない。水は個体状態では氷となり、液体状態の水に浮かぶ。あたりまえのようだが、自然界ではきわめて珍しいことだ。通常の物質は液体より固体状態のほうが重いのである。また、分子組成が水と類似する物質を調べてみると、いずれも沸点が水よりはるかに低く、常温で気体となっている。ところが、水の融点は0℃、沸点は100℃。常温で液体であることが異常であるだけでなく、その温度範囲もずばぬけて広い。

 こうした水の不思議な性質は、水分子どうしが相互に引き合う水素結合と呼ばれる作用に由来する。水分子H
2Oは、1個の酸素原子をはさんで2個の水素原子が直線上に並んだものではなく、Oを中心として「く」の字型に折れ曲がっている。このため、くの字の曲がり角部分がいくぶん負(−)に帯電し、両端部分がいくぶん正(+)に帯電して、分子全体において電気的極性をもつ。この分極により、水分子は電気的に結びつき、特有のネットワーク構造をつくりだすのである。通常の水もバラバラの分子の集まりではなく、クラスターと呼ばれる分子集団として存在することも分かっている。ある条件下では、正12面体の“かご型”構造をつくることさえあるという。


■タンパク質を層状に取り巻く水分子

 細胞は体液に浸っているが、これをミクロに言い換えれば、タンパク質は水によって取り囲まれているということになる。ところで、近年、強力な超伝導磁石とコンピュータを利用したMRI(核磁気共鳴映像法)が開発され、タンパク質を取り巻く水分子はタマネギの皮のような層構造をなしていることが分かってきた。

 このタンパク質を取り巻く水分子の層構造は、VIPの警護体制にたとえられよう。VIP待遇のタンパク質の周囲を壁のように守るボディガードの水分子、それを取り巻く警備陣の水分子、さらに周囲一帯をパトロールする水分子。もしVIP身辺に異変が起これば、その情報は水分子のネットワークを通じて、たちどころに全体に伝えられ、新たな警護体制が敷かれる。この迅速な情報伝達のネットワークになくてはならないのが水素結合なのである。

 水分子どうしの水素結合は、10
―6〜10―12秒というきわめてわずかな時間で、切れたり元に戻ったりの繰り返しをしている。その時間はタンパク質との結合度が大きい中心部では遅く、周辺部ほど速くなるらしい。生体情報は、体液の水素結合ネットワークを通じて、水面に波紋が広がるように伝達されているのだ。生体の酸化還元反応をになう電子伝達系と呼ばれる代謝機能が、離れた場所でもきわめて速やかに広がるのも、この水素結合ネットワークのはたらきによるものである。


■体液は外部磁場のアンテナ?

 “体内の海”である人体の内部環境が水素結合という電気的結合によるネットワークを張り巡らしているのなら、それが外部の磁場環境と無縁でないことは容易に推測できる。実際、工業や農業の分野では以前から「磁化水」と呼ばれる水が利用されている。磁力線の中を通した水は、パイプの水あかが付着しにくいとか、その水でコンクリートを練ると強度が増すとか、植物の発芽や成長を促進するといった経験的事実は古くから知られるところである。理由ははっきりしないものの、効果は明らかであり、また、大ががりな装置も必要としないため、さかんに応用されているのだ。

 ただの水でさえ、外部磁場に影響を受けているのだから、さまざまな電解質イオンを含む体液ではなおさらのことである。地磁気活動の変化が、心臓血管系の病気を悪化させたり、てんかん発作を増大させたりしていることなどは、多数のデータが立証しているところだ。しかも、現在はただでさえ地磁気減少の傾向にあるうえに、都会では人工的な磁気遮蔽、磁気撹乱により、きわめて不安定な磁気環境のもとでの生活を余儀なくされている。ストレスや肩こりなども、この磁気環境の悪化と無関係ではないと指摘されている。磁気ネックレスをはじめとする磁気治療器は、体液にはたらきかけて血行を促し、肩こり解消にもきわめて有効である。

 生体と磁気の関わりは奥深く、分子レベルでの理論的解明は、今後を待たなければならない。しかし、近年の研究からしだいに明らかになってきたのは、外部磁場はタンパク質の機能に影響を与えるだけでなく、体液の溶媒である水そのものも、外部磁場に敏感に反応しているという事実である。滞留した水は淀みをつくり悪臭を放つように、体内の水循環の良否は健康状態を大きく左右しているようである。打てば響くような健康体は、体液の水分子の運動性いかんにかかっているともいえる。地球の海と同様に体内の海もまた、単純なようでいて深遠なのである。



第14回「生体膜と磁気」
―生命活動の最前線、細胞膜は磁場に敏感!―

■人体に生物磁石は存在するか?

 低気圧が近づくと、頭痛がはじまったり神経痛が起きたりするという人は、お年寄りにかぎらず意外と多い。気圧や気温の変化に人体が敏感に反応し、体調が一時的に崩れるのである。これと同様に、地磁気変化もまた人体の生理に微妙な影響を与えていることは十分に考えられる。

 ある細菌(走磁性細菌)が地磁気方向の運動性を示したり、ハトやミツバチの帰巣経路が地磁気異常によって乱されることはよく知られている事実だ。イルカやクジラもしばしば回遊コースを間違えて、浅瀬に打ち上げられることがあるが、迷い込みやすい海岸の多くは、地磁気が極度に弱まった地点であるという。体内の生物磁石を利用したナビゲーション・システムがうまく機能しなくなったわけだ。

 人体にも生物磁石が存在するかどうかは、今のところ断定的に述べることはできない。しかし、たとえ地磁気を利用していないとしても、地磁気変化に影響を受けていることは、さまざまな研究からしだいに明らかにされている。人体の主成分である水は、バラバラの分子ではなく、水素結合によるネットワークをつくっている。このネットワークがアンテナのような役割をして、地磁気変化を細胞に伝えているのではないかとも指摘されている。また、血流はさまざまなイオンを含んだ電解質溶液の流れであるから、地磁気の影響を受けて起電力を発生する。磁気治療器によって肩こりが解消するのは、この起電力が血行を促進するためともいわれる。岩石が地磁気によって帯磁するように、地球上に存在するものはすべて地磁気に無縁ではいられないのである。


■細胞膜は生体物質の輸送・生産基地

 均一な物質系のことを相というが、異なる相の物質系が出合う境界では複雑な物理現象が起きる。たとえば、寒気団と暖気団とが出合う境界は、気象学では前線面と呼ばれる。前線面では大気は乱流となり、水蒸気は凝結して雲を発生し、前線面直下の地表では、雨や落雷がもたらされる。

 細胞の世界も同様である。細胞は細胞膜によって内と外に隔てられている。しかし、この細胞膜は内外を遮断するシェルターのようなものではない。水分子ばかりでなく他の低分子物質も自由に通過できるネットかスダレのような境界なのである。そして、細胞の内外を仕切るこの薄い境界が、生命活動のドラマチックな舞台となっているのだ。

 細胞膜はリン脂質の二重層からなる生体膜である。その両面は親水性の性質をもっていて水分子やイオンと結びつきやすく、膜内部は疎水性領域となっていて、脂質など極性をもたない物質との相性がよい。このため電子顕微鏡では親水性部・疎水性部・親水性部の3層構造のように観察される。細胞膜にはタンパク質や酵素などがモザイク状に配列し、ここで生命活動に必要な物資の輸送や生産が行われている。細胞膜とは人体内部の海に築かれた単なる防波堤ではなく、貿易港であり臨海工場群でもあるのだ。


■外部磁場で細胞膜の活性度が変わる

 細胞内ではK
イオン濃度が高く、また細胞外ではNaイオン濃度が高くなっている。このため、細胞膜をはさんでイオン勾配が形成され、細胞内外では約80mVの電位差が生じている。これはナトリウムポンプとも呼ばれる細胞膜の能動輸送系が、細胞内のNaイオンをたえず細胞外にくみ出しているからである。

 神経細胞においてはこの電位差を利用して、生体情報を電気インパルスとして伝達する。サッカー場スタンドの一部の観客がバンザイをすると、それにつられて隣の観客もバンザイをする。それが順次伝わるとスタンドにいわゆる「ウェーブ」が起きる。神経細胞のインパルスはそれとよく似たものである。しかし、外部磁場によって膜電位が乱されると、神経細胞のウェーブであるインパルスもうまく伝達されない。結果として生体情報が神経系を通して広がらず、さまざまな生理的異変となって現れる。

 細胞の内部には核があり、核内部には遺伝子の本体であるDNAが格納されている。DNAを生命の中心にすえれば、核はその保管庫であり、細胞膜は防壁である。しかし、そのようなハードな細胞モデルでは、生命のしたたかさとしなやかさを説明できない。島国日本において、かつて堺の港や長崎の出島が異文化の接点としてにぎわいをみせたように、細胞の内と外を結ぶ細胞膜は、生命活動の最前線の場となっている。そして、商都の活況が景気に左右されるように、細胞膜の活性度は外部磁場ときわめて深い関係にあるのだ。


■何とはなしの体調異変の原因は?

 低気圧の接近を予測できなくても、雲行きなどから天候の変化はだれもが何とはなしにキャッチする。しかし、何とはなしの体調異変の原因のひとつに、地磁気変化があることに人間は長らく気づかなかった。心臓病や精神病の悪化、伝染病の流行、成長阻害など、地磁気変化が人体に与えている甚大な影響が明らかになったのは、継続的な地磁気観測が世界的に行われるようになってからのことだ。

 しかも現在、地磁気は減少傾向にあるうえ、鉄筋コンクリートのビル、電車や自動車など、地磁気が遮蔽された空間で生活する現代人は、極端に磁気不足の状態にあるといわれる。加えて身の回りにはさまざまな電気設備や装置があふれ、たえず人工的な磁気あらしにさらされている。朝夕や季節変化は自然の規則的なリズムだが、天然および人工的な磁気あらしは、不規則で絶えることのないノイズである。乗り物で長時間移動すれば揺れによる疲労がたまるように、恒常的な磁気環境の乱れは細胞から本来の活力を奪っているとも考えられる。しかし、何とはなしの体調異変というのは自覚することがなかなか難しい。

 衣服や家屋は、朝夕や季節の気温差から人体を守っている。振動や喧騒に対しては防振や防音の処置が講じられる。しかし、磁気を感知する器官がないために、人間は磁場環境の乱れに対しては無防備。2000年後にゼロになるといわれる地磁気が、地球の生物にどのような影響を与えるかは不明である。かつてみられたような生物界のカタストロフィ現象のただ中に、われわれは生きているとも考えられる。

 磁気ネックレスをはじめとする磁気治療器は、血行をよくして筋肉のこりを解消してくれる。原因のよくわからない心身ストレスや現代病も、磁気治療器による細胞レベルのリフレッシュで解消するかもしれない。



第15回「東洋医学と磁気(1)」
―東洋医学の経絡は「気」の流れか? 生体磁気との関連に世界が注目!―

■西洋医学が見落とした生命エネルギー

 健康への関心が高まり、このところ「気功」がブームである。現代中国で国民的体操として奨励されている太極拳も気功とルーツは同じ。生命エネルギーを身体内部から鍛えあげ、基礎体力を高める健康法で、近ごろでは病気の治療にも用いられる。日本で創始された合気道もまた、気を活性化させる技による護身術。では、いったい「気」とは何かというと、その正体ははっきりと分からないのである。

 「観天望気」という言葉がある。雲や風、太陽や月の運行などから天候を予測することをいう。中国では古くから、万物には気が流れるという自然観が打ち立てられていた。天には天の気、地には地の気、そして人の身体にも精神にもあまねく気が満ちていると考えられた。その後、万物の生体変化は陰陽2気の運動からなるという「陰陽理論」が発展し、さらに木・火・土・金・水という5つの性質の相関から事象を説明する「五行説」が生まれた。両者を総合して「陰陽五行説」という。たとえば、風というのは天と地の気が合わさり生じるもので、季節の変化も気の運行リズムによって繰り返されると陰陽五行説は説明する。


■気功麻酔で無痛の外科手術も可能

 ハリ・灸・湯液・気功といった中国の伝統医学は、この陰陽五行説の理論に基づいている。湯液とは、日本で漢方と呼んでいる生薬処方のこと。江戸時代に渡来した西欧の洋方や蘭方と区別するために、それまでの医学は漢方と称されるようになったのだ。ところが、明治維新後の近代化政策により西洋医学が採用されるや、漢方をはじめとする伝統医学は著しく衰退してしまった。本家の中国においても陰陽五行説は迷信扱いされ、その理論に基づく伝統医学や気功もまた非近代的なものとして冷遇された時期がある。

 中国医学と西洋医学の統一を目指した新中国の医学界が、世界を驚かせたのはハリ麻酔である。経絡(身体のツボのネットワーク)の存在さえ疑いがもたれていたころ、まして麻酔薬なしで外科手術が可能であるとは、西洋医学の立場からは信じられなかったのだ。さらにハリ麻酔に続いて、1980年ころには初の気功麻酔も上海で成功した。気功師が患者のツボに気を当てると麻酔効果が現れ、外科医が患部を摘出している間、少しの苦痛も感じられなかったという。


■気はオーラと無関係ではない

 気功には自分で呼吸を整える健康法としての内気功と、修練を積んだ気功師から気を当ててもらう外気功がある。患部やツボに気を当てる外気功治療は、消化器、呼吸器、心臓血管系、神経系など、適用範囲はきわめて広く、リハビリにも効果があるという。下半身不随の患者が気功治療で歩けるようになったという例は珍しくない。

 気には実体がないためいまだ謎が多いが、機器によって検知、間接的に知ることはできる。実験によれば、気功師の身体からは、明らかに遠赤外線、電磁波、マイクロ波などが計測されるという。また、脳波測定をすると、気功の開始前には瞑想時のようなα波がみられるうえ、イメージ脳といわれる右脳のはたらきが活発になる。そして、気を当てるときには、不思議に脳波は後頭部に集中するという。

 ところで、「オーラ(AURA)」を撮影するキルリアン写真というものがある。装置は比較的単純で、高周波電場の中にフィルムや印画紙を設置し、その上に手を置いて撮影・現像すると、指先から放射状に光線のようなものが出ているのが確認される。オーラというのはすべての生命体から発散されていて、その健康状態を表すものだという。

 超常現象として語られがちなオーラも、生体現象のひとつである。それを無理に意味づけたりすると、かぎりなくオカルトに近づくだけの話。欧米ではもっとドライに割り切り、患者のオーラ変化を治療経過の参考にする精神分析医もいる。むしろ注目すべきは気功師が気を発すると、この光線のようなものが劇的に増大する事実。気の正体は定かでないが、どうやらオーラ現象と関係があるようなのだ。

 旧ソ連の物理学者、キルリアンのオーラ理論によれば、すべての物体は磁気エネルギーの場に包まれ、周囲の他のエネルギーを媒介するという。そして、それは人体においては内分泌腺と深く関連するという。もちろん、これは仮説だが、すべての物体が磁気エネルギーと相互作用をするというのは物理学的にも至極当然のこと。内分泌腺についてはあいまいなままだが、東洋医学の経絡と関わりがあるとみなすならば、あながち荒唐無稽な理論とはいえない。


■経路は体液の流れという新説

 西洋と東洋の医学は、思想と方法が異なるが、生体の磁気エネルギーの研究を通し、その接点が見つかりそうな状況もある。磁気エネルギーが気そのものというわけではないが、東洋医学の思想原理である気を科学的にとらえていくと、物理現象の根本である電磁気と大きく重なるからだ。

 近年、経絡とは体液の流れのことであるという説が注目されている。東洋医学における五臓六腑というのは、解剖学的な内臓と必ずしも一致しない。かといって、これは東洋医学の欠陥を意味するものでもない。五臓六腑と連絡しているという経絡が、神経や血管のように目に見えないのは、器官や組織のすきまを流れる体液に関係するからではないかという説もある。実際、経絡のはたらきを判定するという測定器も開発されている。それによれば身体を流れる気のスピードは毎秒20〜30cmという。

 ところで、気功に匹敵するほど歴史が古いのが磁気治療。こちらは欧米でも古代ギリシア以来の伝統をもつが、理論的な説明が困難だったがために、医学の表舞台には登場しなかった。しかし、すでに磁気ネックレスをはじめとする磁気治療器は、肩こりなどにすぐれた効果を発揮することは実証されている。

 体液はさまざまな電解質成分をもつ電気伝導性流体であり、体液が磁場の中を流れることにより起電力が発生し、それが生体にさまざまな作用をおよぼすことも指摘されている。現在、世界的に注目される気と、生体内外の磁場との関わりの研究が進めば、気功治療と磁気治療のさらに詳しいメカニズムがわかるかもしれない。しかし、気功であれ磁気治療であれ、理論の確立に関係なく、試してみてはじめて恩恵が得られるもの。理論一辺倒の現代人は、ともすればこの単純な事実を忘れがちである。


第16回「東洋医学と磁気(2)」

―体液系が生体情報を伝達? 人体の地下水脈、経絡の謎―

■ピアスの穴あけは専門医に相談を

 これもユニセックス現象の1つなのか、近ごろはピアスをする男性が増え、その流行は高校生にまで広がっている。世界の民族文化を見渡しても、耳飾りが女性だけのものではないことは確かだし、もとよりファッションは個人の自由である。しかし、耳たぶに穴をあけるのは、人体にいささかの危険を伴うことは知っておきたい。

 ピアスにまつわるこんなウワサも新聞に紹介されている。安全ピンか何かを使い、自分でピアスの穴をあけた子がいたが、そのうちピアスの穴から白い糸のようなものが垂れ下がってきたので、何げなく引っ張ってみたら…、プチッと切れて、そのとたん目が見えなくなってしまったという。怪談じみた話だが、白い糸というのは傷口の穴をふさぐように成長してきた薄い皮膚が、ピアスをはずすときに外に出て垂れ下がったものだろうと新聞では説明している。ピアスの穴をあけたら、体の調子がよくなったり、逆に悪くなったりするというウワサもある。どうやら耳には鍼灸治療のツボ(経穴)があることに関係しているようだ。耳たぶには視神経などないから医学的に因果関係を説明できないが、確かにそのような事故はわずかながら発生しているともいう。素人がむやみに穴をあけたりすると、思わぬトラブルが起こりかねない。アレルギー体質の人は、金属の不純物で接触性皮膚炎を起こすこともある。どうしてもピアスをつけたいというのなら、必ず専門医と相談してからあけてもらうべきである。


■西洋医学が鍼灸治療に冷淡な理由

 「ツボを心得る」「ツボを押さえる」とは、要点や勘所をはずさないことを言うが、このツボとはもともと鍼灸治療における身体のツボのことである。身体には血管系や神経系とは別の「経絡」と呼ばれるネットワークが存在し、その要所要所にあるといわれるのがツボである。中国医学によれば人体には左右12対の経路があり、生体のエネルギー源が一昼夜に50周循環しているという。このエネルギー源が滞ったり、過不足が生じたりすると痛みや病気が起きる。そこで、しかるべきツボに刺激を与えて健康状態を取り戻すのが鍼灸治療である。

 肩こりや腰痛などが起きると、だれしもツボを無意識に押さえたり、さすったりしている。手足のツボを押すだけで、胃腸の働きがたちどころに活発になることもある。経路は体表と内臓を結ぶ刺激・反応系でもある。

 ところで、西洋医学において生体のさまざまな機能には、それぞれに対応した形態が認められると考えられている。たとえば、手足の知覚には神経が、その運動には筋肉が関わっており、それらの仕組みを研究するのが生理学である。したがって、ツボや経絡があることが疑いないとすれば、それに対応する組織や特別な構造が存在しなければならないことになる。

 ところが、奇妙なことにツボや経絡についてはいまだ解剖学的に確認されていないのである。これが鍼灸治療を神秘的にみせ、また欧米ではいまだ迷信扱いされる理由でもある。


■解剖図の空白域にツボと経路の謎がある?

 ツボや経絡は目に見えない。かといって、電子顕微鏡の解像度を高めれば確認されるというような微細な組織でもないようだ。もしかすると見つからないのではなく、単に見落としているだけなのかもしれない。あまりにあたりまえの存在は、かえって無視されてしまうものだ。

 それでは、人体にくまなく分布するあたりまえの存在は何かと考えると、水ということになる。水なくして生命が維持できないとはいわれながら、実は生体における水そのものについての研究はあまりなされていなかった。血液、リンパ液、細胞間液、体腔液など、含まれている成分が熱心に研究対象とされるだけで、水はそれを溶かしたり運んだりするだけの媒体とみなされてきた。分子構造もいたって単純な水は、生体内にあってなきがごとき存在にみなされていたふしがある。

 気功健康法や気功治療については前号でも紹介したが、人体を巡る気というのは、実は体液の流れのことだと断言する研究者もいる。解剖図において空白にされている部位にこそ、ツボや経絡の謎が隠されているようである。実際、ツボや経路は神経や血管あるいはリンパ管などが網の目のように入り組んだあたりとか、筋肉と筋肉とのはざまなどに存在しているのである。


■生体情報は体液系で、波紋のように伝わる?

 生体と磁気との関わりを考えるうえでも、体液の働きは無視できない。磁気ネックレスなどの磁気治療器が、肩こりなどに有効なことは実証されている。体液中の電解質の流れは電流とみなすことができるので、これが磁場を横切ると起電力が発生する。この起電カが電解質を解離させ肩こりなどのストレスを解消させると説明されている。また、磁気ネックレスから発生するのは強力な定常磁場だが、人体が動き回ることによって変動磁場としても機能する。変動磁場が体温を上昇させることは確認されており、これは血液の循環を促進させるためといわれる。肩こりに効果があるのもこのためだろう。

 ところで、人体を包んでいる地磁気変化によって生ずる起電力も、人体に微妙に影響するという。この地磁気は現在、減少傾向にあるうえ、さまざまな電気機器や設備から発生する磁場によって、現代人は極端に乱れた磁場環境の中で生活しているらしいのである。

 磁気がツボや経絡にどのように作用するかは定かではないが、最近の研究では、生体情報の伝達において、神経系とともに体液系が車の両輪のように機能していると考えられはじめている。人体重量の大半は水であり、われわれは水につかって生きているともいえる。水分子は電気的な極性をもっていて、水素結合と呼ばれる弱い結合でネットワークを張り巡らせている。ツボヘの刺激が経絡を通じて速やかに人体に広がるのも、あたかも水面に広がる波紋のように、生体情報が伝達されるからなのかもしれない。

 乱れた磁場環境に身をさらし続ければ、体液の生体情報ネットワークに通信障害を起こすかもしれない。人体はさまざまな悪環境にもよく順応するから、身体に徐々に蓄積されるダメージにも気づきにくい。磁気治療は現代人にとってはまさに“ツボを心得た”健康法といえよう。



第17回「天体活動と磁気」
―健康に関わる!? 磁気の流れと星の流れ―

■女性はなぜ占いが好きなのか?

 道が交わって「十」字をなすから「辻」と書く。人の往来のひんぱんな四辻には、物騒な辻斬りなるものも出没したから、江戸時代には番所が設けられ、辻あんどんが置かれた。現在でも交差点に交番や信号はつきものである。

 通行人相手に易者が占いを立てる光景は、今日でもしばしば見かけるが、かつては橋のたもとや四辻に多かったので橋占とか辻占と呼ばれた。しかし、ぜい竹を立てたり、天眼鏡で人相を見たりする易者はめっきり少なくなり、今日では西洋式の星占いのほうが人気が高い。女性誌で必ずといってよいほど掲載されているのもこの星占いである。なぜ女性は占いが好きなのかは、学問的にもきわめて興味ある問題である。

 西洋式星占いではホロスコープという占星表が使われる。生年月日と黄道上を1年でひと巡りする12の星座、また太陽や諸惑星の位置とを関係づけて、さまざまな解釈が与えられる。歌の文句にもあるように、まさに「星の流れに身を占って」みるわけである。


■宇宙・自然・人間を貫く法則とは?

 しかし、占星術をいちがいに迷信として片づけるのは浅見というものである。だれしも予感のようなものを経験するときがある。予感が的中するか否かはともかく、この事実を無視するのは科学的態度とはいえない。

 これまで人類は歴史とともに、さまざまな宇宙観・自然観・人間観を築き上げてきた。しかし、これらがバラバラでまとまりのないままでは、心が落ち着かないというのは、昔も今も変わらない。そこで神話や宗教、占星術が生まれることになったわけである。

 とかく法則を無理にこじつけて解釈しがちな宿命占星術や天変占星術とたもとを分かち、実証的な自然科学に歩み寄った占星術もある。これは自然占星術と呼ばれる。天体観測で得られたデータから法則に修正を加え、また自然界の物質や動植物、さらに人体や病気に関する膨大な知識を蓄積して、今日の自然科学の基礎を築いた。

 現代の科学者のルーツが、占星術師や錬金術師、魔術師まがいの医者だったからといって驚くにはおよばない。科学の最前線というのは、いまだ立証されぬ仮説の提唱という観念哲学とスレスレのところに踏み込んでいるものだ。歴史的な新理論を打ち立てた科学者が、周囲から論難を浴びせられるのはよくあることである。新理論というのは多少の難はあって当然、むしろ大切なのはその研究が人類の幸福に結びつくかどうかである。


■宇宙の生命は磁気作用に無縁ではない

 自然界は謎に満ちあふれている。たとえば、磁気と生体との関わりなどは、おそらく生命神秘の解明につながる根源的な現象だろう。地磁気逆転の現象は生物種の絶滅と相関しており、磁気あらしのような短期的な地磁気異常は、人間の神経活動や循環器系の機能にも影響を与えていることは事実である。また、磁場は地球ばかりでなく他の惑星にもあり、太陽の活動周期も黒点の磁場逆転の現象とつながりがあることが確認されている。銀河中心部にも強力な磁場が発生していて、それがブラックホールの存在仮説とともに語られている。これらの磁場がどのようにして発生するかについては定かではないが、もし宇宙規模の磁場環境に規則的変化があるとしたら、地球の生命はそれに大きく支配されていることも考えられる。

 あまり立ち入りすぎると科学から逸脱してしまうが、何よりも磁気作用に対してつきまとうわれわれの表現しがたい不思議な気持ち、そこにこそ磁気作用との深い関わりがあるようにも思える。そして、宇宙において地球だけが特別な惑星でないとしたら、宇宙のかなたの生命体の営みもまた、磁気作用と無縁ではいられないのである。


■治療でなく予防こそ最良の養生法

 人体をミクロコスモス(小宇宙)に見立てて、マクロコスモス(大宇宙)と関連づける考え方は、洋の東西を問わず古い歴史をもつ。興味深いことに、このミクロとマクロの宇宙の対応は、西洋では天文学的、中国では気象学的であるという。西洋では万物に天体運動のような秩序を求め、中国ではたとえば“気”と称されるような永遠の運動をそこに見たのである。これは病気観にも反映していて、西洋では伝統的に人体の秩序を崩すものが病気とみなされ、中国では人体のバランスの乱れが病気とみなされてきた。

 この病気観は似て非なるもので、治療のあり方も根本から異なってくる。人体に悪しきものが現れたのだから、それを排除すればよいという前者の考え方から、外科手術や化学療法が発達して西洋医学が生まれた。これに対して、中国医学に代表される後者の考え方においては、病人の生体機能のバランスを回復するのが治療の主眼となる。

 しかし、近年、病気の大部分は人体に本来備わっている自己治癒力によって回復するもので、薬というのはそれを刺激する効果しかないという中国医学の考え方が、西洋医学の側から高く評価されるようになっている。中国最古の薬物書である『神農本草経』では、自然薬は上薬・中薬・下薬に分類されていて、ふだん常用しても副作用がなく、不老長寿をもたらすものを上薬の筆頭にあげている。薬は病気になってから飲むものとする現代人にとっては、病気や薬に対する考え方そのものが倒錯しているのである。

 磁気ネックレスをはじめとする磁気治療器についても同様のことがいえる。その有効性は体験として確かめられても、磁気が生体におよぼす効果は、現代科学ではいまだとらえきれない奥深い面を潜ませている。しかし、これも磁気治療とは人体のバランスを回復させるものと考えれば説明できる。実際、磁気治療器は肩こり部分を磁気によって直接ほぐすのではなく、血行をよくするなどにより間接的にほぐすのである。人間は磁気を感覚器官でキャッチできない。しかし、身体全体において間接的にキャッチし、その影響を受けているのである。

 最高の薬というのは「予防薬であって治療薬ではない」というように、磁気による健康保全効果はもっと見直されるべきである。占いがすたれないのも、心身不安の現れであろうが、占いの結果に一喜一憂することで、案外、女性はストレス解消しているのかもしれない。プラス思考ができさえすれば、占いもまた一種の養生法といえよう。


第18回「生物工学と磁気応用」
―人工筋肉のアンドロイドに肩こりはあるか?―

■臓器移植で拒絶反応が起きるのは?

 異質なものをつなぎ合わせることを「木に竹を接ぐ」という。たとえばカラタチの台木にミカンというように、果樹や花木においては、近縁の仲間どうしの接ぎ木もごく普通に行われる。しかし、同じ植物といっても、木と竹では形質の共通性に乏しいために接ぎ木は難しい。

 異質なものとのなじみやすさを一般に親和性という。だれともすぐに親しくなれるのは一種の人徳だが、細菌や毒素などの異物に対しても親和性が高いと、「ひさしを貸して母屋を取られる」のたとえのごとく、自らの生命そのものまで奪われかねない。そこで侵入した異物(抗原)に対して、人体は抗体を生産して自己防御に努める。これが抗原抗体反応による免疫システムである。

 ところが、他人の臓器を移植する手術の場合でも、人体はその臓器を異物の侵入とみなすので、猛烈な抗原抗体反応、いわゆる拒絶反応を示す。これを抑えるために使用される薬剤が免疫抑制剤である。しかし、拒絶反応がなくなるということは、人体が異物を受け入れやすくなることを意味し、細菌による感染症などにかかりやすくなる。近年では、抗生物質も効かないMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)による院内感染が深刻な問題になっている。健常者はほとんど感染の心配がないが、免疫抑制剤などによって抵抗力の弱まった術後患者や高齢者は感染しやすく、敗血症や肺炎などを起こして死亡するケースもある。


■人工筋肉を利用した義手・義足

 骨折治療に使われる金属も人体にとって異物であるから、これらを埋め込むときは不純物などによる拒絶反応が問題になる。幸いなことに、骨の組成と似たヒドロキシ・アパタイトと呼ばれるセラミック材料が開発され、人工骨ばかりか歯科用骨補てん材としても広く利用されるようになっている。しかし、手足を失ってしまっては、それを再生することは不可能である。そこで現在、さかんに研究が進められているのは、人工筋肉を利用した義手・義足の開発である。モータを駆動力とする産業用ロボットのようなギコチない動きではなく、筋肉のように伸び縮みする物質を利用して、自由でしなやかな動きを実現しようというもの。

 その第一歩として注目されたのは、温度や電場などの外部刺激によって体積変化したり、ゾル(液体)状からゲル(半固体)状に相互変化を繰り返す高分子材料である。しかし、これらは筋肉のような伸縮運動はまねできるものの、応答にそれなりの時間が必要ですばやい動きはこなせない。

 人工筋肉の大本命と目されているのは、筋肉の基本構造を模倣したアクチュエータ(電気エネルギーなどを機械力に変換する装置)である。意思で動かせる随意筋(横紋筋)はミオシンとアクチンという2種類の筋肉繊維の複合体からなる。ミオシンとアクチンはちょうど刀と鞘のようなスライド構造になっていて、それが束になって筋肉の収縮が行われている。話題のマイクロマシンの一種として、この筋肉原理を模倣したアクチュエータの研究も進められており、また温度やpH、あるいは電磁場の変化で伸縮する高分子繊維もいくつか登場しはじめている。


■あたりまえの肩こりも奥深い

 筋肉の収縮にはATP(体内のエネルギー源)が関係していることははっきりしている。しかし、筋肉の基本構造であるミオシンとアクチンのスライド運動の詳細は謎のままである。このため、筋肉に疲労物質がたまって生じると説明されている肩こりもまた、ミクロレベルでは未解明のことが多い。欧米人とくらべて日本人に肩こりが多い理由も、いろいろな説があるが定かではない。肩こり知らずを自称する人間が、実は重度の肩こりであったというケースもあるほどだから、本人の感覚というのも当てにならない。

 不安や恐怖などの精神的ストレスによっても筋肉のこりが発現する。職場で苦手とする相手と目が合わないように、無意識に顔をそむけているうちに、極度の肩こりが生じて首が回らなくなるという症例もある。人間関係が複雑化している現代社会では、だれもがさまざまなストレスに見舞われているが、それがあたりまえと思い込んでしまえばなかなか自覚できなくなる。

 筋肉のみならず細胞活動は血液をはじめとする体液中の化学反応である。イオンバランスの整った血液が清流のように、スムーズに体内を巡っているのが理想だが、現実にはさまざまな血行の滞りが生じているのである。


■人体の水は血液の何たるか

 血液はさまざまなイオン成分を含んだ流体であり、外部磁界の存在で電流が発生することが確認されている。それがどのように血行に影響を与えているかは十分に解明されていないが、磁気ネックレスをはじめとする磁気治療器の有効性は、多くの愛用者がいることからも裏づけられる。にもかかわらず磁気治療の効果を疑う向きもあるのは、血液を単なる養分や酸素の運搬役とみなしているからかもしれない。

 また、人体の大半を占める水を希釈液のように考えるのも、とんでもない誤解である。血液のイオン成分はさまざまな生体化学反応の見かけ上の主役であるが、この反応は水なしには進行しない。また、そればかりでなく、細胞のさまざまな生体情報伝達に水分子のネットワークが関与し、磁気環境の変化がそれに影響をおよぼしていることも指摘されている。血行が阻害されるというのは、下水管が汚物で詰まるといった単純な現象ではないのである。しかも、現代のようにさまざまな電気設備・機器があふれ、ノイズの多い磁気環境では、身体の血液系の電子伝達はますますスムーズに行われなくなっている。ありふれた肩こりも、生体の化学反応におよぼす磁気環境の影響からとらえなおすと、実に奥深い現象であることがわかる。

 ところで、ロボットがますます人間に近づき、筋肉運動も人間そっくりのアンドロイドが登場すると、肩こりまで人間のまねをすることになるのだろうか。おそらく人工筋肉の研究が進めば、人間の肩こりの解明ばかりでなく、磁気治療にも大きな進展がもたらされるはずだ。働き過ぎでマッサージに通うアンドロイドの姿を想像するのは、現代ストレス社会にのみ通じるブラックユーモアといえよう。



第19回「生体化学反応と磁気」

―人間は生きているから磁場に呼応する―

■半病気と半健康の間の“ゆらぎ”

 若いと言われて喜ぶのは、もはや若くはない証拠という。本物の若者は年齢のことなど関心外である。

 だれしも見かけと実際の年齢とはズレがあるものだ。しかし、そもそもこの“年齢相応の見かけ”というのは、人それぞれが描いている“虚像”にすぎない。時計の針が刻む物理的時間と、人間の生理的時間とは別物なのだから、実際の年齢とはあってないようなものだ。そこで、“気持ち”を若々しく保つことが長寿の秘訣などといわれる。しかし、周囲からおだてられ、本人も若いつもりでいると、とんだ「年寄りの冷や水」となって健康を害したりする。若いと自己暗示にかけることは簡単だが、自らの“気持ち”と素直に向き合うことは意外と難しい。気持ちとは“身体の素顔”なのである。

 たちまち効き目を示す健康の即効薬などはない。東洋医学では健康増進を図る「養生」の薬をもって「上薬(最高の薬)」とし、「未病を治す」ことを最も優れた医療とみなす。「未病」とは、まだ病気ではないが発病の可能性のある状態をいう。われわれだれしも完全な健康体ではありえず、半病気と半健康がアラベスク的に入り組んでいる。いわば「未病」とは、半病気と半健康の間の“ゆらぎ”である。


■地磁気変化と生理変化の時間的ズレ

 健康な人間でも季節の変わり目にしばしば風邪を引く。これを薄着や厚着あるいは寝冷えなどのせいにしてすますことが多いが、実際は急激な気温変化に対して、にわかに順応できない身体機能の混乱が原因ともいえる。この混乱によってホメオスタシス(生体の恒常性)がバランスを失い、人体の抵抗力が弱まって風邪を引きやすくすると考えるのが妥当である。治ったと思っても再び風邪を引いたりするのは、風邪ウイルスをうつされたのではと人のせいにするよりも、ホメオスタシスが安定状態に落ち着いていないからと考えるべきである。だから季節の変わり目は、精神病の発作が多くなるし、どんな人間でも気持ちがゆらぐ。これは少しも異常なことではないが、ゆらぐ気持ちすなわち体調としっかり向き合わないとケガや病気のもとになる。

 ところで、地磁気活動度の変化もまた、心臓病や精神病の悪化、また伝染病の発生とも高い相関があることが知られている。人間は磁気を感知する器官がないが、決して地磁気に鈍感ではない。

 外部磁界の変化に動きを合わせる「走磁性細菌」(第4回で紹介)にしても、磁界に応答するのには時間が必要である。つまり、外部磁界の変化と生理変化の間に必ず時間的ズレがある。人間もまた外部磁界の変化によって、体内の化学反応にさまざまな影響を受けている。しかし、それが身体的な症状として現れるまでに時間的ズレがあり、また、感覚的に地磁気と関連づけられないから、別の理由をコジツケているだけなのだろう。寝不足や疲労、ストレスのせいにしている心身異変は、実は地磁気変化や人工的磁気環境の乱れが原因ということも大いにありうるのである。


■生体の化学反応に影響する磁場

 人工的につくりだされる磁場にも種類がある。永久磁石のように強さや磁界の向きが一定の「静磁場」に対して、磁界の向きが交流のように変化するのは「交番磁場」、磁場変化が瞬間的に起こるのは「パルス磁場」と呼ばれる。生体に局所的に強い交番磁場が加わると、誘導電場が生じて発熱することが確認されているし、またパルス磁場は断続的な磁場変化ではあるが、パルス間隔が短くなればエネルギーは大きくなって生体に与える影響も増してくる。

 実験的に生体試料へ交番磁場やパルス磁場をかけてみると、神経系の活動やホルモン分泌にも変化がみられ、また、酵素が活性化したりする。明らかに生体の化学反応に磁場は影響を与えている。もっとも、特別な職業や研究に従事していないかぎり、通常の一般人が強力な交番磁場やパルス磁場の環境に置かれることはまずない。

 では、永久磁石の静磁場を利用した磁気ネックレスのような磁気治療器が、肩こりなどに効果があるのはなぜか。これは磁気ネックレスの静磁場は一定であるが、血液が脈動しながら体内を巡ることで、相対的に磁気が増減して起電力が発生するからである。永久磁石の静磁場が人体に直接作用するのではなく、静磁場の変化が血行をよくしたり、生体化学反応に影響をおよぼしたりするのである。したがって、デスクワークでも就寝中でも、血流がとだえないかぎり磁気ネックレスは効果を示し続ける。健康に無頓着で多忙な現代人にはまさにうってつけなのである。


■人体はカオス、しかし健康は単純

 外部磁場の変化にたえず順応しようとするホメオスタシスのバランス回復過程は、流行の科学用語でいえば「カオス(混沌)」である。おそらく、分子レベルでの磁気治療器の有効性は、人体の「ホメオスタシス・モデル」のようなものをつくり、このカオス状態をコンピュータ・シミュレーションしてみないことには解明できないだろう。磁気治療器が有効なのは、このカオス状態において、血流との呼応によるリズミカルな磁気刺激をたえず生み出しているからとも考えられる。

 今一度、「未病」という病気=健康観に戻って考え直してみよう。完全な健康はなく、またありふれた風邪発症の究明さえできていないほど病気とは複雑である。しかし、健康というものは意外と単純なものなのかもしれない。たえず生体のホメオスタシスを安定状態にもっていくこと、つまり「養生」に努めればよい。あまりに単純であるから、いつの時代にも人間はこれをなおざりにするのである。

 磁気あらしによる短期的な地磁気の擾乱も、数か月にわたる中期的な地磁気変化も、そして数年〜数十年にわたる長期的な地磁気変化も、人体の生理機能に何らかの変化をもたらしていることは統計的に明らかにされている。さらには、過去の地磁気逆転時には生物種の大量死滅が起きているという研究報告がある。もっとも、これは一種、統計のマジックのようなものを含んでいる。現在、地磁気が減少してきているのは確かだが、だからといって人類が破滅に向かっているなどという結論は、少しも科学的ではない。歴史に不健康な時代と健康な時代とがあるわけではない。

 外部の磁場変化は生体化学反応を促進し、ホメオスタシスの安定をもたらす引き金の役割をもつとも考えられる。自然のリズムに逆らわない規則正しい生活をしている人ほど、磁気治療器の効果も大きいはずだ。生きているかぎり生物はみな「未病」である。環境変化に順応できるように身体に気配りする生物が健康を保ち、気配りできなかった生物が病気やケガをして寿命を縮めているだけの話である。



第20回「血液と磁気」
―磁気は血液をマッサージする―

■ヒルデガルトの宝石療法

 「宝石療法(ストーン・ヒーリング)」と呼ばれるものがある。昔から宝石には神秘的な力があり、身につければ災厄を防いだり、幸福を招くと伝えられてきた。誕生石をお守りにするのはその名残りであるし、現在でも、ラピスラズリ(青金石)や水晶といった天然石が、おまじないグッズとして売られていたりする。

 こうしたバビロニア起源といわれるヨーロッパの占星術とは無関係に、天然石が病気の治療に役立つことを発見したのは12世紀ドイツの女性神秘家ヒルデガルトである。

 幼少時のころから特異な直観力をもっていたヒルデガルトは、植物や金属、鉱物といった自然の被造物に潜む不思議なはたらきを知っていたようで、その主著『自然学(フィジカ)』には、ハーブ療法や宝石治療のことが詳細に語られており、実際、天然石による病気治療も行っていたようである。正式な学問を修めていたわけでもなく、学会と無縁な修道女であったため、宗教的啓示書のように扱われてきたが、その内容はきわめて鋭い自然観察力によることが明らかにされ、近年、各方面から高く評価されるようになっている。いわばヒルデガルトは、百草をなめて医薬をつくったといわれる中国古伝説上の帝王、「神農」にも比肩すべき偉大な博物学者・薬学者であったわけだ。


■磁気治療は心理療法ではない

 宝石に霊力が宿るとみなすのは科学的ではないが、かといって、宝石療法を単なる迷信として片づけるのも偏見である。ヒルデガルトの宝石療法は、心身の調和を回復するための一種の主体的な心理療法とみなせる。薬効のないプラシーボ(偽薬)が、しばしば作用を現すのは本人の「思い込み」による心理的効果だが、宝石療法は本人の心と宝石との「共感」なしに効果は現れないからだ。

 服用もしない宝石に薬効があるわけではない。しかし、自分の心と共感できる宝石を見つけ、そのルーツに思いをはせたり、神秘的な輝きに魅せられることで心身の調和が取り戻され、結果として病気が癒されることもあるのだろう。ストレスのような心身不調和ならなおさらである。これは自律訓練法とかバイオフィードバックといった現代のストレスコントロールと似たところがある。現代人が宝石療法に関心を示すのも、心から共感できるものを失っていることの現れかもしれない。

 宝石療法と似て非なるものが磁気治療である。もちろん、磁気の不思議な作用や人体という宇宙に思いをはせることは、磁気治療の効果を高めることに寄与するかもしれない。しかし、磁気は霊力のようなものではなく、機器によって測定できる物質の根源的な作用であるし、肩こりなどにきわめて有効であるという医学的なデータも多くある。早い話が磁気の効果を信じる信じないに関係なく、磁気治療は効果を示す。これが宝石療法との決定的な違いである。


■血液の働きにこそ生命は発現する

 生体と磁気の関係に血液が深く関与している。人体は内臓や筋肉組織のみで成り立つものではなく、また、血液のはたらきは酸素や養分の補給にとどまるものでもない。一部の内臓を手術で切除しても生命は維持できるが、血液なくして生命はありえない。血液こそ生命の根幹をなすものであり、その活動の乱れはさまざまな病気のもとになる。

 ところで、17世紀にハーベーが血液循環説を提唱するまで、ヨーロッパ医学では血液は人体で生産されて使い捨てにされているものと考えられていた。また、病気は悪い血の滞留によって起きるものとみなされていたから、それを人為的に放出させる瀉血療法(しゃけつりょうほう)が中世ヨーロッパでさかんに行われていた。

 これに対して、19世紀のベルナールは生体の組織液を内部環境と呼び、20世紀にはいってからはキャノンが血液系をはじめとする生体の恒常性のことを「ホメオスタシス」と名づけて、その重要性を指摘した。血液は生命という超越的な存在を支える下僕のようなものではなく、血液系をはじめとする生体のホメオスタシスにこそ生命は発現しているとみなす。これは東洋医学ではあたりまえの考え方であるが、ヨーロッパにおいては医学のコペルニクス的転回ともいうべき革命的な意味をもっていた。現在でもなお、病原体を薬でたたいたり、病変部位を手術で除去してしまうという考え方がヨーロッパ医学の主流であるからだ。


■生体にとって磁気は一種の「引き金」

 人体におよぼす磁気作用のメカニズムについては未解明な部分が多い。しかし、人体のホメオスタシスという考え方に立てば、磁気治療の有効性は苦もなく理解できる。

 磁気と生体についての研究において、わが国の第一人者であり、磁気治療の医学的有効性を立証したことで知られる中川恭一博士は、磁気の治療効果は「物理的触媒様作用」であるという説を提唱している。

 電解質溶液の流れが磁場を横切るとき電磁誘導によって起電力が発生するが、この現象は血流と地磁気あるいは人工的な磁場環境との間にも起きており、外部から加わる磁気エネルギーは、血液の電解質解離などに影響を与えていることも明らかにされている。かといって、外部から加えられる磁気エネルギーがあたかも養分のように体内に摂取されるとみなすのは、磁気を霊力のようにコジツケる非科学的な解釈である。そうではなく、磁気エネルギーは人体の内部環境である血液系のホメオスタシスを維持するように作用する。それは体内を巡る血液が運動エネルギーをもち、磁気は血液の電解質成分に作用して、運動エネルギーの一部を電気エネルギーに変換するためと考えられている。細胞の化学反応は電気現象でもあるため、間接的に細胞の代謝に影響を与えるというのである。

 血液バランスの微妙な変化が体調に大きく関係するにもかかわらず、それがあまり重要視されないことから、現代病といわれるものが登場することになる。細胞や内臓などに異変がみられないうちは、なかなか病気として認められない。しかし、ホメオスタシスはたえず揺れ動いているものであり、だれでも多かれ少なかれ病気の状態にある。病気は撲滅すべきものではなく、病気という状態を正常に戻すという考え方が健康維持には不可欠なのである。

 あらゆる薬というものは人体に対して引き金のような効果をもつだけであり、病気は人体に本来備わった自己治癒力によって治るものだという説がある。人体の免疫というのもそのような自己治癒力のことである。外部から加わる磁気エネルギーの影響、いわば磁気による血液のマッサージといえる磁気治療も、人体に対して、健康への一種の引き金となるといえよう。



第21回「生体磁気を観測する」
―人体のヒエログリフ、生体磁気を解読する―

■話題の地震予知法「VAN法」とは?

 近い将来、首都圏を襲う可能性が高いとみなされる大地震には2種類ある。ひとつは駿河湾を震源として起きると推定され、常時観測が続けられている東海地震のような海溝型地震で、日本の太平洋沿岸地域はおよそ数百年ほどの間隔で、巨大な海溝型地震に見舞われている。もうひとつの大地震のタイプは、1995年1月に阪神大震災をもたらした兵庫県南部地震のような直下型地震である。

 ところで、阪神大震災のあと、VAN法と呼ばれるギリシアの地震予知法が、にわかに注目を集め出した。地表には「地電流」という微弱な電流が流れているが、地震の発生前には、この地電流に変化がみられるという。そこで、この変化を解析することで、震源地や地震発生日、地震の規模などを予知しようというのがVAN法。VANというのは、この予知法の開発者の名前の頭文字をとったもの。

 すでにギリシアでは国内に18か所の観測点が設けられ、過去4年間の予知成功率は5〜6割に達するという。近くは1993年のマグニチュード5.9の地震において、4000軒の家屋倒壊にもかかわらず、予知情報によって死者はわずか1名に食い止められた。こうした功績により、1995年からVAN法はギリシアにおける公式の地震予知法として採用されることになった。

 昔から地震の前兆現象として、雷のときのように空が光ったり、地震雲と呼ばれる異様な雲の発生が見られると伝えられる。これらの現象も地電流の変化と関係があるようだ。


■“ミニ地球”の人体にも電気や磁気が発生

 地震直前に地電流に異常信号が現れる理由は、次のように説明されている。震源地で地殻の崩壊などが起きると、地殻の磁気特性(透磁率)が急激に変化するため、電磁誘導の法則によって起電力が生じ、地殻内に異常な電流が流れる。この電流が地下水を含む活断層など導電性の高い部分を伝わってくるというのだ。

 ネムノキをはじめマメ科の植物は地震に敏感といわれ、以前から日本でも地震予知に役立てる研究が行われてきた。これも植物が地電流の変化に反応するためと考えられている。残念ながら日本では人工ノイズが多すぎてVAN法の利用は、今のところ難しいといわれる。しかし、ノイズ除去の技術は日進月歩であり、近い将来、直下型地震の予知もかなりの確率で可能になるかもしれない。

 地球のマントル対流によって、地殻の新陳代謝がたえず行われているからこそ地震は起こる。活断層の動きというのも寝返りのようなもので、地球が生きていることの何よりの証拠でもある。ミニ地球ともいわれる人体からも、地電流さながらさまざまな生体電気が発せられている。電流が発生するところに磁場が生まれるのは物理学の法則が教えるところ。したがって、地電流が地震情報を含んでいるのならば、生体電気や生体磁気の分析も病気診断に役立つはずである。とりわけ、科学的解明が進んでいない生体磁気は、DNAの塩基配列とともに、解読が待たれる人体最後のヒエログリフ(神聖文字)ともいえる。


■生体磁気の研究が立ち遅れていた理由は?


 生体電気については、18世紀にイタリアのガルバーニがカエルの足の筋肉が、雷雲からの放電によって、けいれんする事実を突き止めて以来、さかんに研究が進められてきた。今日の医学で利用されている心電図、筋電図、脳波というのも、生体電気を体表にセットした電極で検出するものである。これは大地に電極を埋めて地電流を計測する方法と原理的に同じである。

 しかし、電気現象に磁気現象はついて回るにもかかわらず、生体の磁気現象の研究はきわめて立ち遅れている。理由は生体が発する磁場はきわめて微弱なため、生体電気のように簡単に計測できないことによる。方位を知るコンパスも磁気センサの一種である。しかし、微弱な生体磁気を検知するには、磁気を電気に変換するきわめて高感度な磁気センサが必要とされるのである。

 磁気センサとしては、ホール効果を利用した半導体磁気センサ、磁気抵抗効果を利用した金属磁気センサが知られる。自動改札機や自動販売機などにおいて、切符の磁気データや紙幣の磁気インクのパターンなどを検出するセンサとして利用されているし、コンピュータやオーディオの磁気ヘッドもまた、一種の磁気センサにほかならない。

 しかし生体磁気は、切符や紙幣、磁気テープなど磁気強度の数100万〜数100億分の1しかない。しかも、地磁気や人工的な磁気ノイズに覆われてしまうため、生体磁気は理論的に存在が考えられるだけで、実際に検出することは従来ほとんど不可能であった。

 そうした生体磁気の研究に突破口をもたらしたのが、1960年代に開発されたジョセフソン接合素子。超高速コンピュータの演算素子としてのみ注目されがちだが、ジョセフソン接合素子は磁場にきわめて敏感という特性も併せもっているのだ。



第21回「生体磁気を観測する」A
―人体のヒエログリフ、生体磁気を解読する―

■頭の周囲からも固有の磁場が発生している

 極低温状態においては、ある種の超電導体は絶縁物のエネルギーの壁を貫いて超電導電流が流れる。絶縁物とはたとえていえば、ハードルの置かれたトラックのようなものだが、極低温状態の超電導体においては、電流はハードルを無視して、無抵抗状態で流れ続けるのである。このため、ジョセフソン接合素子は、従来のシリコン素子の数10倍のスイッチング速さ(コンピュータにおいて論理回路をON・OFFする速さ)を示す。その一方で、磁場に対してきわめて敏感な特性を示すため、これを磁気センサに利用しようと開発されたのが、本シリーズ第5回でも紹介した「SQUID(超電導量子干渉素子)」である。

 SQUIDはリング状の超電導体からなり、リングの一部には超電導性の弱い材料がジョセフソン接合されている。超電導電流が流れるリングに外部から磁界が加わると、その磁界を打ち消すように電流が発生する。この発生電流は最小単位(量子量)の整数倍で変化することが知られており、これを回路的に取り出すのがSQUIDである。

 こうしてコンピュータ技術から派生的に生まれたSQUIDによって、心臓や筋肉、脳の活動に伴う微弱な生体磁気を読み取る心磁計、筋磁計、脳磁計の開発がはじめて可能になったのである。

 電解質溶液の流れである血液の脈流が外部磁場の影響を受けて起電力を発生し、その起電力が生体磁気を生み出していることや、神経系の活動電位の変化は神経繊維周辺に磁場を発生させていることは以前から理論的に考えられてはいた。SQUIDを用いたD・コーエンらの精力的な実験は、人間にも固有の生体磁気があることまで実証したのである。それとともに、心臓の拍動に伴って心臓の周囲には10
-7〜10-8ガウス(1ガウスは約10-4テスラ)の交番磁場が発生していること、また、頭の周囲にも10-9ガウスの磁場が左半分から右半分に向かって発生していることなども明らかにした。



■生体磁気は観測からコントロールの時代へ

 SQUIDによる生体磁気の計測は、極低温と高度な磁気シールドを必要とするため、簡単に行えるものではないが、セラミックス超電導材料などの開発で、常温かつローコストな計測が可能になれば、さまざまな人体の謎も意外な方向から解明されていく可能性もある。

 外部の磁場変化はホルモンの分泌に影響を与えることは、地磁気変化との関連からも統計的に知られていたことである。細胞レベルでも外部磁場は細胞の膜電位に変化をおよぼすことは、すでに明らかにされている。また、昆虫がサナギから成虫へと変態するときには、温度の影響は大きいのはもちろんだが、外部磁場の強さによっても羽化の仕方に変化が現れるという。これは変態に関わるホルモンが磁場によって配向するためと説明されている。

 前述のコーエンらは神経や筋肉の刺激によるイオン濃度の変化が、生体内部で磁場変化を引き起こすとも主張している。たとえば頭髪の濃いところで磁場は検出されるが、薄い部分や毛髪を失った頭では磁場はほとんど検出されないという。これは毛根周囲に神経が集まっていて、さまざまな刺激によりイオン濃度に変化が起きて磁場が発生するためだ。

 心電図や筋電図などを扱う電気生理学に対して、心磁図、筋磁図、脳磁図などの研究分野は、磁気生理学と呼ばれる。磁気生理学がさらに進歩すれば、男性諸氏の毛髪に関する深刻な悩みも解消されるかもしれない。生体磁気は観測や理論的解明の時代から、応用とコントロールの時代に移りはじめているようだ。



第22回「感覚と磁気」
―視覚は磁場の影響を受けている?―

■ビデオカメラのCCDと網膜との類似点・相違点

 パソコンやワープロなどを長時間操作していると、ディスプレイ装置のブラウン管から飛び出す電磁波や放射線などが、人体に悪影響をおよぼすと指摘され、ひところ問題になったことがある。いわゆる「VDT症候群」である。生理学的な因果関係ははっきりしないが、確かにOA化の進展とともに、目の疲れや痛み、肩こりや頭痛、不安感といったさまざまな心身異常を訴える人が多くなっているという。

 また、テレビゲームに熱中する子供が突然、てんかんを起こして倒れるというケースも報告される。派手なアクションシーンなどで多用される閃光などが刺激となって起こるもので、「光過敏性てんかん」と呼ばれるものだが、木漏れ日や波光のきらめきなどが、発作の引き金になることは、以前から知られていたことである。

 人間の網膜の視細胞は、錐状体(すいじょうたい)と杆状体(かんじょうたい)とに大別される。錐状体は明器ともいわれ、明るいところでの物体の形態や色の視覚と関係し、一方、暗器ともいわれる杆状体は薄暗いところでもよく光を感じることのできる性質をもつ。つまり網膜は明るいところでカラーフィルムのように作用し、薄暗いところでは高感度の白黒フィルムのように作用するのだ。

 光学的な視覚情報は視細胞によって受容され、電気信号に変換されてから、視神経を通じて大脳に送られる。約100万本といわれる視神経を“画素(色や明るさの情報の最小単位)”とすれば、網膜はビデオカメラなどで使用されるCCD(固体撮像素子)に似ているともいえる。しかし、網膜では化学反応が介在しているところが、光エネルギーを電気エネルギーに直接変換するCCDとの大きな違いである。


■人間の方向感覚もまた地磁気の影響を受けている?

 視細胞には感光色素が分布していて、光が当たると光化学反応を起こして色素が分解、続いてさまざまな化学反応を起こしながら、最終的にはパルス状の膜電位変化となって脳に送られる。

 脳において視覚に関係しているのは、松果体と呼ばれる部位である。渡り鳥は太陽光と地磁気によって飛行コースを決めるといわれるが、そのコントロール装置にあたるのも松果体である。地磁気というのは視覚情報とは無関係のようだが、方向感覚においては深いつながりをもっているようである。実際、ミツバチの腹部、伝書バトやイルカなどの頭部からは、磁気を感じる物質であるマグネタイト(磁鉄鉱)が発見されていて、これらの生物は磁気コンパスのような器官をもっていることが確認されている。

 それでは、人間の方向感覚というのは、いったいどのような情報に依存するものなのだろうか。ベッカーという学者は、目隠しした学生を数10kmも離れた地点にクルマで移動させ、出発点の方向を当てさせるという実験を行った。その結果、多くの学生は出発点をかなり正確に指し示したが、頭部に小さな磁石をつけた学生の指し示す方向には誤りが多かったという。磁石の発する磁場によって地磁気が乱れ、方向感覚に乱れが生じたためと説明されているが、今のところ、その因果関係は立証されていない。


■網膜で光化学反応を起こす色素タンパク質ロドプシン

 モルモットやラットを使った実験では、人工的な外部磁場の変化は網膜を刺激して、間接的に松果体の細胞の膜電位に影響を与えることが確認されている。また、麻酔によって急性の盲目状態にしたラットでは、網膜に磁場の刺激を加えても、松果体の細胞の膜電位に変化はみられない。これは視神経による電気信号の伝達が遮断されたためとみられる。

 では、よりミクロなレベルにおいて、いったい網膜の何が磁場の影響を受けているのだろうか。現在のところ、その有力候補にあがっている物質のひとつがロドプシンである。

 ロドプシンは半径が約5nm(ナノメートル・約0.005μm[マイクロメートル])、球形の色素タンパク質である。細胞膜はリン脂質の二重膜からなるが、明暗を識別する杆状体の外節は、シラコイドと呼ばれる円盤状の二重膜が1000枚以上も重なって構成されている。ロドプシンはこの二重膜の中に埋もれていて、光を感知する物質であるレチナールと結合している。レチナールに光が当たると、寿命の短い中間体を生成して、続いてレチナールとオプシンに分離する。この中間体の生成が膜電位に変化を生じさせ、視神経を通じて視覚情報が脳まで伝達されるといわれる。

 カエルの視細胞を用いた実験では、人工的に外部磁場の向きを回転させると、それに伴って視細胞の配向が起こることも明らかにされている。もっとも、それがカエルの視覚にどのような変化を起こしているかは分からないが、少なくとも外部磁場の変化は、網膜の感光物質を変化させることにより、視覚に何らかの影響をおよぼしていることは事実のようだ。



第22回「感覚と磁気」A
―視覚は磁場の影響を受けている?―

■磁気は脳に直接作用して視覚に異変をもたらす?

 われわれ人間でも、暗闇の中でいきなり物音が聞こえると、実際は何も光ってはいないのだが、火花のようなものが見えることがある。また、頭部に衝撃を受けると、俗に“目から火が出る”ような体験をする。同様に地磁気や人工的な磁場環境の変化が、われわれの脳に働きかけて、視覚に影響を与えていることも十分に考えられる。

 カナダの脳外科医ペンフィールドは、治療のために患者の頭蓋を開いた際に、脳の各部位に電気刺激を与えて、それがどのような反応をもたらすかを研究した。これによって大脳皮質の運動野と感覚野の機能分担がはじめて明らかにされた。

 しかし、研究目的のために頭蓋をむやみに開くわけにはいかないし、頭皮から電気刺激を加えるのも、被験者に苦痛を与える。そこで、電気刺激にかわる手段として考えられたのが磁気である。磁気ならば骨や膜に遮断されずに大脳皮質にまで到達するし、MRI(核磁気共鳴映像法)が医療に応用されているように生体への安全性も確認されている。しかし、これまで脳に局所的に強力な磁気刺激を連続的に加える装置がなく、それが可能になったのは、ようやく1990年代になってからのことである。

 コイルを取り付けた電極を頭皮に貼りつけてパルス状に電流を流すと、発生する磁場によって脳内で渦電流が生じる。この渦電流によって脳細胞を反応させて、感覚にどのような影響を与えるかを調べようというのが磁気刺激装置である。

 連続的に強力な磁場を発生する磁気刺激装置は世界に数えるほどしかなく、まだ改良途上の段階だが、これまでの研究だけでも、言語脳と呼ばれる左脳に加えた磁気刺激は、言語能力や計算能力に影響をおよぼすことが明らかにされている。また、後頭部に磁気刺激を加えると、ステレオグラム(赤と緑の眼鏡による立体視)によって見えている立体感が瞬間的に消失することも、日本の研究者によって発見されている。

 しかし、磁気刺激装置の被験者は、実験によって視覚に異変が現れたことが分かるが、われわれは磁気そのものを感知できないために、外部磁場を原因とする視覚異変は、日常生活においては突き止めようもない。単なる目の迷い、気のせいですましている可能性もある。言い換えれば、われわれは地磁気をはじめとする外部磁場の影響を受けた視覚によって、世界を眺めているということになる。

 もとより、われわれの眼は外界の物体そのものをとらえているようでいて、実は視神経で伝えられる電気信号から、脳が再構成した画像をとらえているにすぎない。赤・緑・青を光の3原色というのも、視細胞の錐状体には、これら3色の光の波長に特異的に感度を示す色素が存在するからである。光の3原色とは人間についていえることであり、他の生物においては別の原色をもっているかもしれないのだ。われわれには見えない赤外線をキャッチするというヘビは、赤外線をある特別の色彩として感知しているとも考えられる。



■仏教の「色即是空」は科学的にも正しい?

 人間の色覚異常は、視細胞の錐状体の機能異常が原因と考えられているが、色覚異常の人がいったい自然界をどのような色彩で見ているかは、なかなか理解しがたい。色覚異常であった化学者ドルトンは、通常人と異なる自らの色覚を科学的好奇心で考察している。ドルトンが語るところによれば、赤と緑の色覚は他の人々と異なるようだが、両方がまったく同じように見えるわけでもなく区別はつくのである。しかし、どのように区別しているかは、通常の色覚をもった人間は推測しようもない。

 空は青く、血は赤く、草木は緑というように、われわれは物体には固有の色彩があると思っているが、色覚というのは光の波長の違いを識別するためのもので、色彩の印象の共通性というのは、あってなきがごとく空虚なものである。それは同じ色彩を見ても、人によって反応の仕方が異なることからも分かる。

 たとえば、移ろいゆく季節は、自然の色彩の変化としても現れるが、そのとらえ方は各人各様なのかもしれない。「十人十色」という言葉もある。また、希望を失ったときに、世の中が灰色に見えたりするのは、単なる比喩を超えて、本人の視覚にはそう現れているのかもしれない。それと同様に感覚器官で直接にとらえられない外部磁場の変化は、われわれが気づかないだけで、視覚や心身状態にも微妙な影響を与えていることも考えられる。色彩、色覚、その磁気の影響などを突き詰めて考えていくと、仏教の説く色即是空=空即是色の世界に、かぎりなく近づいていくことを知る。おそらく人間には、いまだ科学が究明していない五感を超える感覚があるのだろう。



第23回「自然リズムと生体磁気」
―現代人は季節感とともに健康を失っている?―

■地磁気変化は人間の体格まで変える?

 日本人の体格を計測してみると、頭骨は統計的に短頭タイプと中頭タイプに区分されるという。これは日本列島に定住していた縄文人と稲作をもたらした弥生人との混血、また、古墳時代以降の渡来人との混血を物語るものという。もちろん、だからといって、頭の形で自らの祖先が決定されるわけではない。これは、たとえ血液型が性格と相関関係にあるとしても、血液型によって自らの性格が決定されるわけではないのと一緒である。

 こうした遺伝による形質の変化とは別に1970年代にソ連のバシルクという学者は、地磁気変化は人間の顔形の変化と相関関係があることを報告している。発掘される古代人の顔形の変化をグラフにし、それを古地磁気の磁気モーメントの変化のグラフと比べてみると、偶然には帰せられないほどの重なり合いを示す。なぜか地磁気モーメントが減少していた時代には、顔の幅が狭まる傾向にあるというのである。

 これはソ連だけではなくヨーロッパ全体についても調べられていて、相関関係の存在は疑いないものとされている。しかしだからといって、地磁気変化が直接、頭骨の発育を促進したり抑制したりすると主張しているわけではない。現象の相関関係を短縮的な因果関係に結びつけてしまうと、とんでもない誤った結論が導かれたりする。磁気と生体の関わりは科学的に実証されているが、そのメカニズムは未解明なところも多いのである。


■地磁気逆転が生物に何をもたらすかは謎

 過去に幾度となく起こった地磁気逆転は、多くの生物種の絶滅と相関しているという。ある種の絶滅生物の化石が、地磁気逆転があった時代の地層に集中しているからである。また地磁気は現在、減少傾向にあり、このまま進めば遅くとも2000年後にはゼロになるともいわれる。

 地磁気がなくなれば地上に降り注ぐ宇宙線の強度は高まることは確かである。そこで、やがて2000年後には地上の生物は絶滅の危機に瀕するというような終末論的なストーリーがつくられたりする。しかし、これもまた短絡的な発想である。

 地中の微生物の中には、地磁気に応答して磁極の方向に移動する走磁性細菌と呼ばれるものがいる。過去の地磁気逆転にもかかわらず走磁性細菌が生き延びてきたことは、地磁気逆転が必ずしもすべての生物に危機をもたらすものではないことを意味する。

 実際、走磁性細菌の発見者ブレークモアが、北指向性の走磁性細菌に磁気パルスを当てたところ、およそ半数が南指向性になったという。これは磁気パルスによって、走磁性細菌が体内にもつ磁性物質の極性が反転したためとみられる。

 かといって、地磁気逆転にすみやかに適応した生物が、生き延びるために有利にはたらいたともいえないのである。科学的な事実はだれにとっても事実であるが、その事実を紡いでつくられるストーリーには、その人間の世界観が反映する。生物の進化論というのが、哲学・宗教論争に近いものがあるのもこのためである。


■旧暦は非合理的か? 自然リズムを忘れた現代

 「一日の計は朝にあり、一年の計は元旦にある」といわれる。人間は睡眠から目覚める朝を1日のはじまりとみなすが、では、なぜ元旦が1年のはじまりなのか。これは愚問である。人間が1年を365日と定めて、その第1日目を元旦と呼んでいるにすぎないからだ。

 ところで太陽暦からみると、1年の長さが最大で30日ほどもズレる旧暦は、きわめて非合理的なように思われている。しかし、1年の自然リズムは現代よりも密接に生活と結びついていた。というのも、旧暦では暦の上での月日とは別に、立春(春立つ日)・雨水(水ぬるみ降る雪も雨に変わる日)・啓蟄(冬ごもりの虫が穴を出る日)といった「二十四節気」が設けられていたからだ。

 冬至を基準に1年が24等分されていたから、季節の節目ごとにしなければならない仕事というのも、節気を知ることで判断できた。つまり、月日のズレはあっても、季節変化を追うような暦になっていたので、自然リズムと生活リズムの調和がうまくとれていたのである。

 また、昔は食べ物も季節と密接に結びついていた。農作物や魚介類のいわゆる「はしり(出始め)」や「しゅん(最盛期)」を賞味することを通しても、自然リズムと同調することができたのである。

 では、ひるがえって現代人の生活リズムの基準となっているのは何か。考えてみると、たいていは時計の時刻とカレンダーの日付によって、毎日のリズムを刻んでいるだけなのである。テレビ番組が時計がわりになっていたり、学校や勤め先の行事が1年の節目になっていたりして、自然リズムとの調和は少しも念頭にはない。食卓には豊富な種類の食べ物が並ぶが、季節感は失われてしまっている。



第23回「自然リズムと生体磁気」A
―現代人は季節感とともに健康を失っている?―

■短期的な地磁気変化は“ミニ地球”身体に影響

 地球の地軸がもし傾いていなかったらと考えてみよう。公転面に地軸が垂直だったとすると、昼夜は同じ長さになるが、季節がなくなってしまう。つまり、緯度によって寒暖の差は生じるものの、ある地点の気温は年中ほぼ一定ということになる。地球に実りの秋というような決まった時期の収穫期があるのも、植物の生理が季節変化に同調しているからである。

 地球は大きな磁石にたとえられ、地磁気を生み出すのは、地球内部の導電性の物質の流動によると考えられている。また、地磁気逆転のような地磁気の永年変化とは別に、太陽活動の影響による規則的・不規則的な短期変化と呼ばれるものもある。

 規則的なものの代表としては日変化があり、不規則的なものとしては磁気あらしなどがある。植物の1日のリズムは、こうした規則的・不規則的な地磁気変化と同調することが実証されているが、人間においても、血圧や心拍数、白血球数などは、明らかに地磁気の日変化と関係しているという。また、磁気あらしなどの不規則的な変化は、血栓病や心筋梗塞の病状を悪化させたりするという。人間は磁気を直接感知できないものの、身体は磁気環境の変化に敏感なのである。

 現代人の生活から季節感が薄れていくのを心配するのは、単なる懐古趣味からではない。気温や日照のみならず、地磁気というものも生物にとってきわめて重要な環境要素になっていることは、さまざまな統計的事実や実験的事実などから明らかなことなのだ。

 一説によると地磁気変化は地球気候とも相関しているという。地磁気逆転をもたらす地球内部の導電性物質の流体運動は、地球の自転の微細なゆらぎと呼応しており、それが気候変化をもたらすとともに、気候変化もまた、地球の自転や地磁気に影響をおよぼすというのだ。

 もっとも、地磁気の永年変化は、徐々に進行するものであり、短期的に地球気候を改変するものではない。しかし、磁気あらしや日変化のような地磁気変化は、“ミニ地球”とも呼ばれる人体に直接の影響を与える。季節をはじめとする自然リズムと同調しない生活は、まずこのミニ地球の環境異変をもたらし、現代人にさまざまな病変をもたらしている遠因となっているとも考えられる。


■「気配」を感じ取るとは、身体への気配りのこと

 英語の“season”には季節という意味のほかに、気候や環境に「適応させる」「順応させる」という意味がある。季節というのは、一様に流れる物理的時間につけられた便宜的な目盛りではなく、宇宙リズムや身体リズムと関わったものなのだ。

 磁気を感知する器官のない人間は、磁気に鈍感なのではない。それは、たとえば季節の「気配」を鋭敏にとらえる感受性として現れているのではないだろうか。

 「気配」をとらえるとは、自らの身体変化への「気配り」のことである。そして、外界の気配を感じ取り、身体に気を配ることが健康につながるのだ。人体への磁気の作用というのは、この微妙な「気配」に関わるもののようだ。

 磁気の生体への作用というと、磁気を栄養源か何かのように思い込む。だから、磁気が生体に活力を与えたり、直接何かを治癒するように思ってしまうが、そうではなく、だれにも備わった人体の自己治癒作用を磁気が刺激するのである。外部の磁気環境の変化は自らの身体リズムを自覚するきっかけを与え、身体がスムーズに機能するような引き金効果となるのである。その意味で身体リズムのみならず、自然リズムに“気づく”というのは、健康に密接に関わることなのだ。

 「秋来ぬと目にはさやかにみえねども風の音にぞ驚かれぬる」という有名な和歌がある。古語で「驚く」とは「ハッと気づく」という意味。自然リズムと身体リズム、生活リズムが同調していた昔の人々は、秋の気配(すなわち身体変化の気配)にハッと気づいたときに涼を得て、身体は秋への適応をはじめたのだろう。まだ暑いのに立秋とは何事かと怒るのは、刹那主義の現代人である。

 季節変化とは単なる時間情報、単なる環境変化ではない。同様に磁気も人間にとっての重要な環境要素なのである。ハッと気づいたときはすでに手遅れというのは、季節感を失い、自らの身体環境にも鈍感になりつつある現代人の不幸なのである。



第24回「磁性材料と生体磁気」
―水惑星の生物が手にした磁性材料―

■御雇外人教師ユーイング。来日中の2大功績

 日本地震学会が発足したのは1880年。この年マグニチュード5.5〜6の京浜地震が発生、横浜などに被害をもたらしたのが発足のきっかけといわれる。地震が自然科学の研究対象となったのは、これ以後のことだ。

 世界に先駆けて地震学が日本で誕生することになったのは、当時、明治政府の招聘で来日していた御雇外人教師たちの好奇心と科学的探求心の賜物である。地震に慣れっこになっている日本人と遠い、彼らにとって地震は恐ろしくも珍しい自然現象だったようだ。

 振り子の原理を利用した水平地震計を考案したのも、御雇外人教師の1人で、東京大学において教鞭をとっていたイギリスの物理学者ユーイングである。彼はまた5年間の日本滞在中に、電磁気学においても多大な業績を残している。学生たちに電磁気学の実験指導を行っているうち、かの有名な「磁気ヒステリシス」現象を発見したのである。

 磁性体に外部から磁場を加えると、磁性体は磁場の強さに応じて磁化され、やがて磁気飽和状態に達する。ここで外部磁場をゼロにしても、磁性体には残留磁化が残って最初の状態には戻らない。また、逆向きの磁場を加えると、逆向きの磁極で磁気飽和状態に達する。

 加える磁場の強さをX軸、磁性体に残留する磁化の強さをY軸としてグラフを描くと、この磁性体の磁化過程は、ふくらみをもったS字型の閉曲線となる。これが、電磁気学の教科書に必ず登場するヒステリシス(磁気履歴曲線)である。

 近年、地電流の変化をキャッチして、地震を予知しようという研究も進められているが、以前からエレクトロニクスと地震学とは因縁浅からぬ関係にあったのである。


■自然界の磁性もさまざま、生物に関わるフェリ磁性

 ところで、自然界の磁気は物質のどのような作用によって生み出されるのだろうか。

 地球はしばしば巨大な磁石にたとえられる。一方、原子は原子核とそれを取り巻く電子からなるから、原子核を地球とみなせば、原子核が磁気を生み出しているようにも思える。しかし、原子核がつくる磁気は無視できるほどきわめて微弱であり、物質の磁気の担い手になっているのは電子のほうである。

 物質の磁気的性質の違いは、それぞれの原子を取り巻く電子の磁気モーメントの違いから生じるものである。いわゆる磁性と呼ばれるものは、次のように分類されている。

 物質の磁性は大きく秩序磁性と無秩序磁性に分けられる。電子の磁気モーメントの向きが、ある規則で並んでいるのが秩序磁性、バラバラなのが無秩序磁性である。

 秩序磁性のうち、フェロ磁性というのは、電子の磁気モーメントの向きが一方向に整然と揃ったものをいう。鉄やコバルト、ニッケルなど、結晶全体が永久磁石になりやすい性質の物質はこのフェロ磁性をもつ。また、反強磁性というのは、電子の磁気モーメントが互いに反対向きで打ち消し合うものをいう。

 生物磁石と関係が深いのはフェリ磁性である。これはフェロ磁性と反強磁性の中間タイプといえるもので、結晶中に異なる2グループの磁性原子が存在するのが特徴である。この2グループの磁性原子の磁性モーメントは互いに打ち消し合っているが、片方の磁気モーメントが優勢なので、その差の分が自発磁化となり、さまざまな磁気的性質を発現する。

 エレクトロニクス分野で広く応用されているフェライト、磁気テープに使われるガンマ酸化鉄(γ―Fe
2O3・マグヘマイト)、また、天然の磁鉄鉱(Fe3O4・マグネタイト)などはこのフェリ磁性体の代表である。


■鉄を取り込むタンパク質が生物磁石の前駆物質?

 1975年、マサチューセッツ工科大学のブレークモアにより発見された走磁性細菌は、じゅず状に並んだ約20個ほどのマグネタイト粒子を体内にもち、地磁気や人工的に加えられる外部磁場に応じた動きをする。

 マグネトソームと命名された走磁性細菌の磁鉄鉱粒子の大きさはおよそ50nm(ナノメートル・1nmは10億分の1m)ほど。膜のようなもので包まれており、細菌が天然の磁鉄鉱を摂取して生物磁石として利用していることは明らかだが、体内でどのように生物磁石がつくられるかは、今もって謎のままである。

 一方、こうした生物磁石は、走磁性細菌のみならず、ミツバチの腹部、伝書バトやイルカの頭部からも発見されている。いずれも天然の磁鉄鉱とみられる生物磁石である。生物磁石が磁鉄鉱からなることは、次のようにして知ることができる。

 生物磁石はタンパク質と結びついているので、まず生物を解剖して残留磁化を示すタンパク質部分を分離する。こうして集めたタンパク質に徐々に温度を加えていきながら残留磁化を測定すると、ある温度で磁化状態が急変する。これはキュリー温度と呼ばれるもので、磁性体の相転移により、フェリ磁性体が無秩序磁性の常磁性体に変わることを示している。マグネタイトのキュリー温度である580℃近辺の温度で急変が起これば、生物磁石は天然の磁鉄鉱であることが推測されるのである。

 タンパク質は謎の多い物質だが、一説によればフェリチンという鉄タンパク質が、生物磁石の前駆となるタンパク質ではないかともいわれている。フェリチンは動物の肝臓や小腸などに含まれる分子量46万ほどのタンパク質で、鉄の吸収と貯蔵にきわめて重要な役割を果たしている。

 鉄は生物体内の酸化還元反応に関与する必須微量元素で、鉄が欠乏すると酸素運搬をする赤血球中のヘモグロビン(鉄タンパク質)の量が減少して、貧血を起こしたりすることはよく知られる。生体の酸化還元反応とは、ヘモグロビンによって運ばれた酸素が、生体組織から奪われた電子や水素イオンと結合して水となる一連の化学反応である。これは呼吸鎖とも、電子伝達系とも呼ばれる。

 この電子伝達系は生体の物質合成とも深く関わっている。生物磁石がいかに産生されるかは明らかではないが、生体の電子伝達系の一部で行われていることは確かである。



第24回「磁性材料と生体磁気」A
―水惑星の生物が手にした磁性材料―

■生物磁石がなくても磁気応答性をもつ

 マグネトソームをもたないのに、地磁気に応答する微生物もいる。ショ糖から多糖をつくるため、虫歯の原因になっているある種の細菌は、地磁気の方向に応じて多糖のつくられる量が変化することが実験的に明らかにされている。

 また、ヒザラ貝のようにマグネタイトの歯をもつものもいるが、この歯が地磁気に応答するセンサの役割を果たしているわけでもない。

 このことから分かるように、生物の磁気応答性は、生物磁石の有無だけで決定されるものではない。また、生物界にはフェリ磁性の磁性体以外にも、地磁気変化に応答性を示す物質があると考えざるをえない。実際、人間の体内からは生物磁石は発見されていないが、生体機能は長期的・短期的な地磁気変化の影響を受けていることは統計的に実証されている。


■導電性流体と考えれば血液は広義の磁性材料

 生物の新陳代謝を突き詰めると、電子伝達系のプロセスに帰着する。また、磁気と電気は相互に転換することを考えれば、生物が磁気環境の変化と無縁でないのは明らかだ。

 電気伝導性のある流体が磁場を切って運動すると、電流が流れて磁場が発生する。また、磁場の中の流体に電流が流れると、その流体に力が働いて、流体の運動に変化が起きる。

 こうした現象を研究対象とするのが、電磁流体力学(magneto hydro dynamics)。まだ半世紀あまりしか歴史のない学問分野だが、太陽や地球内部の活動は電気伝導性のある流体の運動ととらえるようになってから、太陽黒点の盛衰や地磁気生成のメカニズムも明らかにされてきた。

 言うまでもなく、人体には血液という電気伝導性のある流体が、たえず脈打ちながら流れている。磁気ネックレスや磁気バンドなどの磁気治療器の効果は、強力な磁場の中を血液が流れることで起電力が生じ、この起電力が生体の化学反応に影響を与えるからだとも説明されている。

 生物磁石などをもたない植物も、その成長は外部磁場の影響を受けることが実験的に証明されている。さらに、無生物の水さえ磁場を加えられると、その物理的性質を変える。これは磁化水と呼ばれていて、作物に与えるとよく育つことも知られる。

 磁気というと、天然磁石や人工磁石、電磁石を思い浮かべることが多い。しかし、生物と磁気の関わりを考えるには、どうやら磁気=磁石という固定観念を払拭して、流れる導電性流体そのものをある種の磁性体とみなす考え方が求められるようだ。

 人間が磁気を感知する器官をもたないということは、ある意味では幸いなことである。走磁性細菌やミツバチなどのように、地磁気変化に振り回されたりしては行動の自由を失うし、まして人工的な磁場環境の変化まで感知しては、騒音以上の公害に悩まされることになるだろう(?)。

 しかし、その一方で、人体は磁場環境の影響を受けているのも事実。人間と磁気との関わりは、生物磁石をもつ生物と違って、あくまで間接的なのである。そして、人体においてこの間接性の媒介となっているのが、おそらく血液だ。人体内部の脈流する血液は磁場変化のアンテナのような役割を果たし、よくも悪くもさまざまな心身変化をもたらす。血液は水惑星の生物にふさわしい広義の磁性体ともいえるだろう。



第25回「生物の老化と磁気」
―老化は細胞膜のほころびからはじまる―

■生理学的時間は生物によって異なる?

 時間というものは、生物・無生物を問わず、自然界にあまねく同じように流れているものと思いがちである。しかし、時計が刻む物理学的時間はどこでも一定だが、生物の体内に流れる生理学的時間のほうは、種によってそれぞれ異なる。しかも、この生理学的時間は、だいたい体重の4分の1乗に比例するという(詳しくは本川達雄著『ゾウの時間とネズミの時間』参照)。

 この関係が成り立つ前提となっているのは、ほ乳類ではどの動物も、一生の間の心臓の拍動数は、およそ20億回であるという事実である。たとえば、ゾウの寿命は100年近くもあり、かたやネズミの寿命は数年にすぎない。単に物理的時間でくらべると、ゾウはネズミよりも長生きであるが、心臓の拍動を体内時計にたとえると、ゾウの体内時計はネズミのそれよりもゆっくりと動いているということになる。

 したがって「物理学的な寿命が短いからといって、一生を生ききった感覚は、存外ゾウもネズミも変わらないのではないか」という(前掲書)。つまり、客観的には同じ自然現象でも、長寿のゾウではゆったりと、短命のネズミではめまぐるしいテンポで進行しているのかもしれないというのである。



■生物の寿命は大きな謎、細胞は自ら死を決断する?

 人類の祖先と言われるアウストラロピテクス(約400万〜150万年前の猿人)は、平均寿命が10年にも満たず、最長でも約40年ほどの寿命しかなかったことが化石から明らかにされている。一方、現代日本人の平均寿命はおよそ80年にまで達しているが、アウストラロピテクスの時代とくらべて、最長寿命のほうは3倍程度にしか伸びていない。生物に寿命があるのはあたりまえのこととされる。しかし、その寿命が何に起因しているかは大きな謎のままである。

 近年では、細胞が役目を終えたとき、あるいは生体防御が必要なときなどに、自ら進んで死を決断する機能が細胞の遺伝子に組み込まれていることが明らかにされてきた。また、分裂する細胞も無限に増殖できないことも確認されている。研究用に培養器などで育てられるがん細胞も、50代ほど分裂を続けると、なぜか増殖をやめるという。

 人体は約60兆個の細胞からなる。これらの細胞はたった1個の受精卵が分裂した結果であるが、分裂過程でさまざまな任務をもった細胞ができて、肝臓や肺などの器官が形成されていく。これが分化と呼ばれる。

 老化を細胞レベルで解明しようとすると、分化した細胞のそれぞれが異なる寿命をもつという事実に突き当たる。皮膚細胞のように分裂・増殖によってたえず若返りを続ける細胞もあれば、赤血球のように約120日で役目を終えて壊される細胞もある。また、心筋細胞のように分裂・増殖しないが、破壊されないかぎり100年以上も機能する細胞もある。

 ところで、地磁気をはじめとする外部磁場の変動は、老化現象とどのような関わりがあるのだろうか。長期的な地磁気変化は、人間の体格や成長に影響を与えていることが統計的に実証されている。また、過去の地磁気逆転と多くの生物種の絶滅とが奇妙に符合していることも知られる。現在、地磁気は減少傾向にあり、遅くとも2000年後にはゼロになるという。これが生物の寿命にどのような影響を与えるのかを予測しようとすれば、地磁気変動と老化現象を細胞レベルにおいて解明する必要がある。


■細胞の死によって維持される生体の機能

 誕生から死までの個体の老化過程と、人体を構成する約60兆の細胞の老化や死滅とを混同してはならない。生物は細胞の集合体だが、個々の細胞の死の累積が、個体の死をもたらすわけでもないからだ。むしろ個体の生命は、個体を構成する細胞の死によって維持されている面がある。脳の神経細胞にいたっては、分裂・増殖もしないのに、毎日10万個以上も死滅している。これをもったいないなどといってはならない。脳の機能は神経細胞が死滅することで発現しているともいわれる。つまり頭を使うということは、脳細胞を死滅させることと同義だというのである。

 生物は誕生した瞬間から老化が始まるといわれるように、成長と老化は不即不離の関係にある。これを細胞レベルでいえば、細胞では老化促進機構と抗老化機構とのせめぎあいが演じられていることになる。このせめぎあいこそ、生命活動そのものともいえるのだが、老化促進機構のほうが抗老化機構にまさるようになると、個体の老化となって現れ、やがて個体の寿命が尽きる。

 老化のメカニズムを説明する学説はさまざまであるが、近年、老化を促進する要因のひとつとして注目されているものに活性酸素がある。大気中の酸素は酸素原子2個が結びついた安定した酸素分子(02)として存在している。しかし、呼吸によって酸素分子が生物体内に取り入れられると、さまざまな化学反応に使われる過程で、酸素分子の片割れが不安定な遊離状態で存在するようになる。これが活性酸素である。



第25回「生物の老化と磁気」A
―老化は細胞膜のほころびからはじまる―

■生体のラジカル反応は磁気の影響を受けやすい

 活性酸素は反応性がきわめて高いために、代謝に不可欠であるばかりでなく、体内に侵入する細菌を死滅させるはたらきももつ。ところが、活性酸素が必要以上につくり出されると、正常な細胞も傷つけるという問題が生じる。とりわけ、活性酸素が細胞膜表面の不飽和脂肪酸と結合すると、動脈硬化や老化の原因といわれる過酸化脂質を生成するといわれる。これは、ネブラスカ大学のハーマンが提唱したフリーラジカル理論である。フリーラジカルとは、活性酸素のような遊離基のことで、この遊離基が関与した反応のことをラジカル反応(遊離基反応)という。酸素呼吸をする生物は、このラジカル反応によって、敏捷性を得ているといっても過言ではない。

 光合成植物の出現によって、原子地球の大気の酸素があふれ出したとき、反応性の高い酸素は生物たちにとっては毒ガスのような存在であったと考えられている。多くの生物が死滅したり、あるいは酸素を逃れて地中に潜ったりする中で、酸素の反応性を有効利用する生物が現れた。これが酸素呼吸をする動物である。

 今日でも酸素呼吸の動物にとって、活性酸素は両刃の剣。活性酸素を代謝に活用することは、その一方で、自らの細胞を傷つけ寿命を縮める危険性を伴わざるをえないからだ。

 ところで、活性酸素が関与したラジカル反応は、外部から加える磁場に応じて、反応速度が微妙に変化することが明らかにされている。これは生体における代謝が、地磁気のような弱い磁場変化にも影響を受けやすいことを意味する。そして、代謝の主要舞台となっているのが細胞膜なのである。


■生死が表裏をなす細胞膜の二重性

 細胞膜は細胞内の環境を保ち、生命維持に不要な物質をシャットアウトし、かつ必要な物質を細胞内に送るための重要な仕切りとなる。磁気あらしなどの短期的な地磁気変化が、心臓病などの血液循環系の病気に異変を起こしたりするのは、細胞膜のイオン透過性に地磁気が影響を与えるためといわれる。

 しかし、繰り返して言えば、活性酸素は人体にとって排除すべき単なる悪玉的存在であるわけではない。人体にとって大切なのは活性酸素の退治ではなく、そのバランスを保つことである。したがって、細胞レベルにおける生体と磁気の関わりも、細胞膜の老化促進機構と抗老化機構とのバランス維持の面からとらえなおす必要がある。

 風通しのよい住宅にカビは発生しない。磁気治療器というのは、カビの発生を防ぐための換気のようなものと考えれば分かりやすい。

 磁気は薬のように作用するわけでもなく、まして魔法の霊力をもっているわけでもない。ただ、生体の化学反応を刺激し、生体が本来もつバランス維持機能を目覚めさせる引き金の役割をするといわれる。

 部屋の隅とか家具の裏とか、空気が滞留するところにカビが発生しやすいように、血流の滞るところで肩こりなどが起きる。血流が滞る主因のひとつが細胞の老化であり、それは活性酸素が必要以上につくられていることからくるといわれる。

 その原因としては、タバコ、アルコール、排気ガス、放射線、紫外線などのほか、現代人に多い心身ストレスもあげられている。磁気治療器が心身ストレスにも有効といわれるのは、磁気が細胞膜の化学反応に作用し、活性酸素のバランスをとると考えれば、うまく説明ができるのである。

 生体と外部環境の境界となっているのは、皮膚ではなく細胞膜にほかならない。生体の老化は細胞膜からはじまり、それを阻止する機構も細胞膜において発現する。地磁気変化をはじめとするさまざまな環境因子の影響を受ける細胞膜は、たえず揺れ動く自分自身の心身状態=気持ちとなって現れているともいえないこともない。生死が表裏をなした人間存在の二重性というのも、老化促進と抗老化の機能をもつ細胞膜の二重性に起因するのかもしれない。



第26回「エピローグ 磁気と生体」
―生物にとって磁気とは何か?―

■銀河の回転とともに脈動する宇宙磁場

 宇宙空間には10
-9ガウス(1ガウスは約10-4テスラ)ほどの不均一な磁場と、ほぼ同強度の一様な磁場とが重なり合った微弱な宇宙磁場が存在するという。太陽のような恒星はイオン化したガスからなり、その運動によって磁場が発生することは、電磁流体力学の理論によって明らかにされている。われわれの銀河はおびただしい数の恒星からなる渦巻星雲のひとつである。宇宙磁場の起源は詳しく解明されていないが、恒星と高密度の星間物質の複雑な運動に原因することは確かなようだ。

 地球の生命を取り巻く磁場環境は、宇宙磁場や太陽磁場、地磁気、そして人工磁場などが合成されたものである。このうち宇宙磁場は、地磁気や太陽磁場の数億〜数10億分の1ほどの微弱なものである。しかし、さまざまな実験が明らかにしているように、磁気が生体に与える影響は、その強度と相関しない。人間の聴覚は騒音の中で人声だけを聞き分けるように、生体は微弱な磁場に選択的に反応するところがあるようだ。ある時代を生きる生体にとって影響が大きいのは、磁場環境の永年変化よりもむしろ短期的な磁場変動である。そして、人工磁場を除けば、磁場環境における短期的な磁場変動の多くは、地球外からもたらされるという。

 磁場環境の変化が血液循環や神経系、生体の化学反応などに影響を与えていることは、本シリーズでたびたび紹介してきた。つまり、磁気を感知できないとはいえ、われわれは宇宙全体の磁場の脈動と深く関わりながら生きているわけである。

 たとえば、植物の発芽や根の成長は自然界の磁場変動の影響を受ける。また人工磁場を加えてみると、磁場の強度や時間によって、成長が促進される場合もあれば阻害される場合もあることが実験的に明らかにされている。これは植物の成長リズムとの同調具合に関係があるとみられる。しかし、どのような磁場変動が成長にプラスに作用するかは未解明である。生体と磁気の理論の確立を困難にしている理由もここにある。


■血液や細胞膜、神経系は磁場変動のアンテナ?

 生命のはたらきは、ある安定系から別の安定系への移行過程である不安定系をバネとして発現するようだ。さかんな成長期というのも、生物自身にとってはカタストロフィックな過程である。

 たとえてみれば、生命とは磁場の大海に漂う小船のような心もとない存在である。しかし、かといって針路を失った漂流船のようなものではない。めまぐるしく変動する磁場環境の大波小波に揺られながらも、生体は必死に健康バランスの維持に努める。磁気あらしのように短期的な地磁気撹乱は、いきなり襲ってくる横波のようなものだが、生体は一時的に影響を受けても、本来のバランス回復機能によって安定状態を取り戻す。もとより、健康と病気には明確な境目などなく、生体は健康と病気の間で、たえず微妙にゆらいでいる存在である。

 重力と同様の環境要素でありながら、人間が感覚でキャッチできないのが磁気である。とはいえ、血液や細胞膜、神経系などは、こうした短期的な磁場変動に対してアンテナのような役割を果たし、さまざまな磁場変動の影響を受けていることが明らかにされている。しかし、生体という複雑系に対しては、同じ外部磁場も個体によって作用が異なってくる。これがともすれば磁気治療が怪しげな民間医療と同類視される理由にもなっている。


■宇宙時代の幕が開き、再評価された磁気治療

 磁気治療の歴史は紀元前にまでさかのぼる。2世紀、古代ギリシアの医学者ガレノスは、天然磁石を下剤として用いていたと記録されており、16世紀の医師パラケルススは、水腫や黄疸の治療にも磁石を用いていたという。また、古代中国医学においても、磁石は薬石のひとつとして登録されている。

 内服薬としてばかりでなく、金属を誘引する磁気の性質を応用した磁気治療も古くから行われてきた。動物磁気説を提唱した18世紀ドイツのメスマーは、驚異的な治療実績によって一時期ヨーロッパで大評判となったことで知られる。もっとも、これは一種の催眠療法であったとみられ、磁気の効果というよりも、患者自身の心理的効果のほうが大きかったようだ。

 生体と磁気との関わりが、科学テーマとして研究されるようになったのは、1960年代以降のことである。地球の磁気圏には、地軸に直交して取り巻くヴァン・アレン帯と呼ばれる放射線帯が存在する。ここにはきわめて高エネルギーの陽子や電子が多量に存在するため、宇宙飛行士への影響が心配され、人工磁場による放射線のシールドが施された。しかし、強力な磁場が人体に与える影響については未解明であったため、この方面の研究を急速に進めることになったといういきさつもある。

 ともかく、こうして19世紀以降の電磁気学の成果と、20世紀の宇宙時代の幕開けによって、磁気治療にまつわる古くからの迷信や誤解の多くが一掃された。また、その一方で、客観的な実験や統計的な事実から、外部磁場が生体にさまざまな影響を与えることは疑い得ない事実として再確認された。


■生体内部の世界にも磁場の脈動が満ちている

 磁気療法を行った18世紀のメスマーは晩年、ペテン師扱いされて不遇をかこったといわれる。しかし、彼は潮の干満のように繰り返される生体リズムが乱れると、さまざまな病変が起きると考えていた。これは病気を気の流れの滞りとする東洋医学の考え方にも通ずるものである。

 現代人は、この病気にはこの薬というように、病気と薬を対応させて考えることが多い。しかし、そのような対症療法的な薬の処方は東洋医学においては好ましくないとされている。人体には本来、たえず健康バランスを維持する機能が備わっているのであり、薬はその引き金の役割を果たすだけとみなすのである。もっとも、これは東洋医学だけの考え方ではなく、西洋医学でも人体にはホメオスタシス(恒常性)を維持する機能があると考えられている。これは磁気と生体との関わりについて考えるときにも通じるものである。生体には本来、バランス維持機能が備わっているとするならば、磁気治療とは、まさにこのバランス機能を刺激する外部からの引き金効果ということになる。

 生物にとって磁気とは何か? これをひとくちで答えることは難しい。しかし、宇宙空間にも生体内部の世界にも磁気の脈動が満ち満ちている。生物にとって磁場環境とは、外的環境であるとともに内的環境でもあり、そして生命そのものと密接な関わりをもつようだ。

 磁場環境とは、それとの調和なしに生物が存続し得ないところの重要な環境要素である。そして、生体は自ら磁場を発生しつつ、宇宙の磁場のゆらぎと相互作用を行っている。この相互作用の詳細は未解明だが、個体が宇宙全体に主体的に関わりうることのひとつの証左である。生物は外部磁場の変動に追随するだけの受動的存在ではないのだ。

 木々や草花に日々、励ましの言葉をかけると、成長の度合いが増してくるという。生命どうしの関係とは物質やエネルギーの単純な交換にとどまるものではなく、双方が一体になった創造的なプロセスである。磁気と生体との関わりの科学的解明には、おそらく主体性・創造性・自由といった人間学的なアプローチも求められるだろう。

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